緊急アフガンレポート・テロ戦争の最前線から
||| アフガンの東・パキスタンの西 |||
アラビアンナイトとはGPSの位置がちょっとずれるが「タリバンと40人の闘族」とでもタイトルをつけたい戦況報告が先週あった。今年2月にムシャラフ政権と交代したパキスタンの新政権が、9日になってタリバンシンパの辺境自治区を取り仕切る軍閥との和平交渉に成功……というニュースが入った。
パキスタン新政権樹立とタリバンの復活
いよいよタリバン勢力も、アフガン戦争終結への路程に就くのか……と思ったのも束の間、拘束が甘くなったパキスタン政府軍の国境警備網を堂々とかいくぐって、我が物顔のジハディストがパキスタンからアフガニスタンへと、カイバー峠を越え越境流入。アフガニスタン東部のガズニ州や、ヘルマンド、クナール各州で、それまで米NATO連合軍に協力していた地元の親米的集落を襲い、復讐の大量殺人、公開処刑、見せしめの陵辱、徹底した略奪・焼き討ちと、テロリストの名に恥じない蛮行の限りを尽くしている。
アフガニスタンの東、パキスタンの西。ジハディストの別天地「ジハディスタン」あるいは「タリバニスタン」と称される両国の国境地帯では、アフガン・パキスタン両国政府軍の国境検問所や米NATO連合軍の前線基地が、「打倒アメリカ」という攻撃目標をひとつにするタリバンとそのシンパである過激派イスラム軍閥の共闘作戦によって、連日の激しい襲撃に遭っている。タリバン勢力の急激な復活と武装戦力の格段の飛躍で、今年に入ってから米軍は守勢に回ってしまっているが、その事実を裏付けるように、6月の戦死者はついにイラク戦線の戦死者数を越えてしまった。
ペンタゴンのスーパーコンピュータを駆使しなくても、単純な小学生の「算数」でもわかる非情な現実。イラク駐屯米兵14万4千名に対して、アフガン前線へは3万6千名しか派兵されていない。NATOとの連合軍全体でも6万である。それでもアフガンの方が戦死者が多いのならば、米軍の総司令官だったらどうするだろう?
それだけ戦局が熾烈で過酷を極めている証拠だろうから、当然アフガニスタンへ援軍を送るだろう。倍増してもいい位だ。しかし米軍はすでに各軍とも出兵期間のローテーションを使い果たしており、米国本土からの派兵はきつい状況だ。それならば比較的治安が良くなったと言われるイラクに現在駐留している部隊を差し向けてでも、テロ戦争の最前線であるアフガン戦線を保守しようとするだろう。なぜなら、そのためにこれまでの7年間を闘ってきたのだから……実に7年半も。
アフガニスタンとパキスタンの国境地帯、この高峻な山岳地帯は数世紀にわたって「Safe Heaven for Jihadhists=イスラム聖戦の兵士ジハディストの別天地」だった。ジェット戦闘機や戦闘タンクといった近代兵器の使用が不可能な、山脈と急流が奥深く入り込んだ険しい複雑な地勢を、排他的少数民族パシュタン族 (Pashtun tribe) が民族自決の命運をかけて死守している。
クーデターで軍政を打ち立て、9/11以降は親米政策で生き延びたムシャラフ大統領の独裁ともいえる軍事政権に代わって、2月に成立したパキスタンの新しい民生政府。世界からその動向が注目された新生ファルーク政権は、タリバン復活で揺れ動くパキスタン国内の治安を少しでも沈静化しようと、国内での辺境部族対策を弾圧から和解政策へと大転換。
こうした辺境の地域社会の精神的背景とイスラム国家としてのナショナリズムを熟慮して、ついに叛徒軍閥との仲介役である部族長老たちと和平条約を結んだ。これが現地時間で今月9日水曜のできごと。当然の成り行きとは言え、テログループとは妥協も交渉もしないという方針のブッシュ政権からは、トカゲのシッポ切りのような冷遇に遭っている。
しかしながら、今年に入ってからのタリバンシンパ軍閥の跋扈には目に余るものがある。6月にはアフガニスタンの首都カブールでカルザイ暗殺未遂事件。これと前後して、数限りない自爆テロが各地で勃発。アフガン第二の南部の都市カンダハールでは、刑務所(というより監獄という表現の方がふさわしい「古典的」な施設だが)がタリバンに襲撃され、収監されていた囚人千人以上の全員が脱走に成功。米国メディアでは「タリバンの大脱走」という大見出しで、アフガンの警備体制が嘲笑された。収監されていた囚人は、ほとんどが連合軍の討伐作戦で捕獲された「戦争捕虜」だったのだから、軍部の落胆ぶりも愁嘆ものだった。
米NATO連合軍の堡俏や基地をターゲットとする、タリバンとシンパ軍閥側の襲撃は日に日に激しさを増し、前述のようにイラクよりも厳しい戦況となってきた。2003年以来「中東での聖戦」を闘うべくイラク戦線へ遠征して、ゲリラ戦のノウハウと簡易ミサイルやロケット砲などの先端の武器をマスターしたタリバンの兵士たちが、連合軍の守備戦力の弱体化した国境地帯ジハディスタンへ帰郷し、反米意識で共通する地元の叛徒軍団を指揮しているのだろう。
おりしも13日には、国境地帯の治安警護を増強するため新たに建設された米軍基地施設が、完成してわずか3日目にタリバン連合の急襲に遭い、米兵9人が「基地内」で戦死した。負傷者は15名。命からがら脱走し空軍の爆撃を求めた米兵の連絡で、初めて悲惨な戦況が報告されたようである。
おつきあいで寄せ集められたNATO軍には期待していないが、2001年の9/11襲撃事件に動機を発する米軍は「タリバンとアルカイダ討伐」という錦の星条旗の元に、本来のテロ戦争の本拠地アフガニスタンに侵攻したはずである。しかしブッシュ政権は、ビンラディンを捕獲するチャンスをみすみす見逃し、そのミッションを途中で保留にしたまま、石油利権確保と言う見当違いの欲業にまみれたゴール、サダムの首とバグダッド目指して、イラク戦争の泥沼に踏み込んでしまった。
もし今から100年後に、米国が中国とロシアに次いで世界で三番目の、あるいはそれ以下の国家に成り下がっていたとしたら、米国の転落のそもそもの契機はイラク戦争にあったと、未来の歴史学者たちは結論づけるにちがいない。そしてその元凶は、戦争の実行者たるブッシュ政権と、背後の侵略計画「中東ニューワールド」政策を立案したネオコンだったと。
【米国時間2008年7月14日『米流時評』ysbee 記】
»» 次号「テロ戦争最前線 第1章『タリバンの逆襲』アフガン戦死者2400名」へ続く
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by ysbee-2
| 2008-07-14 14:40
| タリバニスタン最前線