スワット谷の夜明け・タリバン戦線の鍵を握るパシュトゥン族
||| スワット谷パシュトゥンの夜明け |||
テロ戦争9年目、終結の鍵を握るスワット谷・パシュトゥン民族の自衛組織
昨日末尾にちらっと書き足した補足の部分が
実はかなり重要なヒントを含んでいるように思えるので、
今日の冒頭で、記事リンクと一緒にあらためて書き直しました。
この8年のテロ戦争に対する、私の真情です。
【 スワット谷に夜明けは来るか 】
今年5月、パキスタン政府軍がタリバン掃討戦に本腰を入れ、
空爆まで含んだ全面戦争を宣言。
タリバンが完全に掌握していた北ワジリスタン州の
スワット谷一帯に、大々的な侵攻作戦を展開した。
比較的安全な、首都ペシャワール郊外などへ大移動。
つまり、わずか1週間足らずで、群馬県や栃木県とほぼ同じ面積の地域から
県の総人口と同数の住民が、全員脱出したのと同じである。
「エクソダス」のタイトルが大袈裟ではないことが察せられよう。
実態調査に難民村を訪れた国連の調査団も、
言語に絶する難民のスケールに、絶句するはずである。
今年5月の当時の詳細は、米流でも「スワット谷のエクソダス」として連載。
5/07 第1章「百万人の難民エクソダス・パキスタン最前線レポート」
5/08 第2章「スワット谷のエクソダス・タリバニスタン民族大移動 」
5/09 第3章「さらば中世! タリバン恐怖政治の終焉」
5/10 第4章「21世紀狂気の蛮族・タリバン最期の日々」
5/10 第5章「テロ戦争終章へ・アフパキ前線のエンドゲーム」
かつてはのどかな果樹園の緑の谷間だったスワット谷に
避難していた住民がちらほら帰郷。
パキスタン政府軍の警備兵がパトロールしているものの
一旦掃討したタリバンがリターンしないように、
地主である地方豪族の長老以下、住民の有志は、
政府から武器を供与してもらい、自警団を形成した。
実に革命的なできごとである。
なぜなら、この地域の住民は、
昔日のアレキサンダー大王の東方遠征の時代から
外部からの侵略者に対しては、徹底抗戦。
何千年にもわたって伝承されてきた
「外敵に屈しない」という民族の誇りを
唯一の精神的資産として守り続ける彼らから見れば、
中央政府でさえも、彼らの自治権を奪う「略奪者」なのだろう。
数百代にわたって住み続ける、パシュトゥン民族。
近代化を標榜する中央集権の国政をうとんじて
国家的行政や事業にも なかなか参加しようとしない。
社会慣習としての行事は、地域の長老が執りしきる。
特に近年、米国のテロ戦争以降は
ムシャラフ軍事政権は、イスラムの教理に背信する、
アメリカの傀儡と嫌悪されてしまった。
一歩間違えばタリバンに寝返るかも知れない
中央政府の宿敵だったパシュトゥン族に、
政府側から武器を供与というのは、驚愕の方針転換である。
しかしイラクでは、スンニ派の蜂起が絶えなかった
やはり反政府的体質の アンバープロバンスで、
この大胆な政策を実施し、平定に成功した。
テロの恐怖政治でこの地域の社会活動を麻痺させていた
イラクアルカイダを地域から掃討する軍事力に転換する政策。
これが「アンバーの夜明け」とか「スンニの目ざめ」と呼ばれる、
地元住民を味方の戦力にとりこむ施策である。
当時のイラク大使で「バグダッドのロレンス」と異名をとる
国務省の英才、ライアン・クロッカーが発案。
当時イラク米軍の総指揮官だった ペトレイアス司令官が実施した。
この施策以降、スンニ派のテロ活動は激減した。
ペトラエウス司令官の地域戦略を、過去の成功戦略として分析。
これを戦略アドバイザーのジェームズ・ジョーンズ大統領補佐官が
タリバニスタンと呼ばれる国境地帯の、地域特性に沿うよう策定し直し、
アフガン・パキスタン地域専任のリチャード・ホルブルック外交特使が、
現行政府のザルダリ政権へ箴言した結果だろう。
ブッシュ時代には、アフガンとパキスタンを分離して対応し
米軍の戦力の大半を イラク侵攻に向けたために、
そのあとのタリバン戦略は、パキスタンの地元警察や国境警備隊による
神出鬼没の叛徒を後追いする、モグラ叩きにひたすら終始して
結果的にタリバンは、テロ戦争以前の領土を挽回してしまった。
長期にわたっての、為政者としての政治的理念というものがない。
そもそも、終戦を見越した地域平定という観念が欠落していた。
あったのは、ネオコンのニューワールド構想が
ご破算で願いましては……と勝手に中東全域の国境線を引き直した
「悪魔の地図」と(アラブ世界ではそう呼ぶらしい)、
軍産共同体の、兵器と戦闘機と爆弾の、莫大な消費計画。
レジデュアル・インカムならぬ、レジデュアル・コンサンプション。
ネオコンというハツカネズミが、永遠に回し続ける
軍事消費の永久輪廻だった。
米軍は実に、米国のためではなく、
他国の軍事と経済の、覇権の指令の元に闘わされた。
イスラエルロビー団体AIPACの思惑をそのまま投影して
ブッシュとチェニーが進めた中東の解体と再編成。
その目的は、
イスラエルの軍需産業への長期大規模発注と
サウジ王家のライバル国家打倒による中東覇権と
英国石油ブリティッシュ・ペトロリウムの石油業界寡占。
米軍は、それらを都合よく実現するために引かれた
イラクとイランを攻略する青写真にそって、
ドルで雇われた中東の傭兵役を果たしたにすぎない。
国際社会から、開戦事由の意義が認められる。
平和を最終目標におかない闘いは、
おおよそにして侵略行為であり、
単なる「連続する戦闘行為」に過ぎない。
その一点で、「戦闘の永続」を目的とする軍需産業、
特に、米国の軍産共同体が、国家の軍事政策を左右するのは、
根本的に、アメリカ合衆国の憲法違反であり、国家反逆罪である。
他の機会に回す。
さもないと、1週間あっても終わらずに、
最後は、ハーグの国際裁判所まで
その足跡を追っていかねばならないはずだから。
【 米国時間 2009年8月9日『米流時評』ysbee 】
▶【イラク戦争特集】2007年『米流通信』イラク戦争記事一部リスト
07/2/06 「アメリカはなぜ勝てない?イラク戦争諦観」
07/8/23 「イラクの4年半・長く熱い終わらない戦争」
07/9/10 「ペトレイアス将軍のイラクレポート」
◀ 次号「タリバンのエンドゲーム・テロ戦争の潮目」
▶ 前号「特報!米ミサイルでタリバン首領メスード爆死」
記事リンク http://beiryu2.exblog.jp/10088349
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by ysbee-2
| 2009-08-09 19:40
| タリバニスタン最前線