メディアはメッセージ・米国の「鳩山ショック」の原因
||| メディアはメッセージなり |||
今回、鳩山氏の小論文の抜粋が掲載されたのは、
米国を代表する新聞『ザ・ニューヨーク・タイムズ』である。
日本ではリベラルなメディアと受け止められているが、
むしろ媒体特性としては「アメリカンカルチャーの総合紙」といった趣き。
実際、出版物や映画・演劇・アートの世界では、
タイムズの評論がなくては、存在そのものが成立しない。
経済欄や政治欄も、その膨大な米国発信情報の
総合的な世界の一部ととらえた方が良い。
昨日の記事のキャプションでも書いたように、
基本的には「個人の意見の投稿欄」であって、社説ではない。
曜日によって同紙特約の著名評論家が
自説を連載しているため、このOP-EDページは人気が高く、
当然注目度も高いスペースである。
(注:本来の名称は「opposite the editorial page」で、
新聞社の記者や編集者ではない外部の第三者からの投稿ページ。
しかし、一般的には「opinion-editorial」の略と解釈されている)
時流の話題の焦点となる意見であれば、
評論・著述のプロ・アマにかかわらず、
編集者の選択によって採り上げられ、掲載される。
鳩山氏の小論文抜粋に関しては、タイムズもそうだが、
私はむしろ、米国著名ブログの HuffingtonPost の方が、
広く米国の一般市民に読まれたのではないか、と観測している。
鳩山氏自らの名義で、記事エントリーしており、
コメントの反応も現在まで112通ほど寄せられている。
民主党の側近なのか、外務省官僚なのか、
あるいは、熱心な支持者なのか、まったく不明だが、
鳩山氏をカバーするような立場で投稿したのではないか?
と思えるような、四角四面の擁護と賞賛のコメント投稿も見られる。
ネイティブの「米語」と、外国人の書いた「英語」の文章は、
日本人がブログのコメント欄を読んで、
中国人の書いた文章を 一見して識別できるように、
言い回しがまったく違うし、「て・に・を・は」が滅茶苦茶なので、
いくら米人を装って書いていても、冒頭の一行から尻尾が出ている。
まあ、そういうことは枝葉末節であるし、
コメントは鳩山氏が書いた訳ではないから、無視できる。
正直言って、これでは中学生の「青年の主張」である。
スタンフォードを出たというので期待していたが、
やはり、日本人の「英作文」の域を出ていない。
同じ日本人の書いた文章でも、昨日と今日のエントリで紹介している
ニューズウィークの横田氏の文章は、完全にこなれている。
ぎくしゃくしていないので、すんなり読めるが、
鳩山氏の文章は、行きつ戻りつしなければならず、
アメリカ人ならば、あえて日米関係に深い関心をもつ人間でなければ、
たぶん途中でそれ以上「解読」するのを、放棄してしまうだろう。
その目的語が欠落している文を書いてしまうことがよくある。
例えば「claim/抗議する・注文をつける」という動詞を使った場合
そのかかり先が呈示されないと、「何に対して?」と問い返されるだろう。
その他にも、アジア人の英語につきものの定冠詞のつけ忘れ……
そういった、文法的な誤謬を挙げれば、随所に無数に見られる。
構文が曲がりくねっていて、非常に抽象的な表現が多いので、
論文というほどには、論理の構築が完結していない。
「Hatoyama's essay=鳩山氏の随筆」と呼ばれている。
経済を語っているのに、データの裏付けがなく
雰囲気に流れてしまっているからであろう。
しかし、そうした文章構成のテクニカルな問題は、
日本人の書いた英文、ということで看過されてもいい。
意味はともかく通じるのだから。
だが、一番問題なのは、その媒体である。
つまり、建設的意見として批判するのは、むしろ米国側でも歓迎するだろうが、
そもそもが、発表の場を間違った。
彼の論説は当初一見すると、まるで
グローバル化反対運動家が書いた
反米主義の抗議声明 (anti-American rant) のように読める。
この論調では、今週早々 (米国保守系の) ワシントンポスト紙が
「日本の次期政権は米国政府との衝突を意図している (seek a rupture)」
と、国際面の記事で警告を発したのも無理はない。
鳩山氏の論文に対する 米国側のこうした一連の被害妄想 (paranoia) も、
日本では実質的に前例のない
「完全な政権交代 (complete change of administrations)」が
史上初めて実現した、という事実を考慮すれば、充分理解できる。
ただし「まずい形で出てきてしまった (it just happens to be wrong)」
というだけのことだ。
「日本社会の土台が変わる一大転機」と捉えられている、
東アジアの勢力地図を変えるかも知れない、今回の政権交代。
当然、新しい政権を担う人間の第一声、一挙手一動足が、
今後の方針の兆候を示唆するものとして解釈される
デビュタントの初舞台である。
したがって、ニューヨークタイムズのOP-ED欄に出たのは、致命的だった。
その理由は、昨日のコメント欄で、ブログ『家族がいちばん』の
練馬のんべさんへのレスで書いた通り。
鳩山氏とその側近は、「メディアはメッセージ」と言う、
40年前のマクルーハンの鉄則を、今さらながら噛みしめる必要がある。
……やはり「史上初の政権交代」ということで、米国でも注目されていましたが
小論文が問題になってからは、ほとんど「脅威」と捉えられてしまったようです。
このエントリ(で紹介した『Newsweek』誌)の日本人編集者も書いてますが、
私も思うに、出した媒体がまずかった。
タイムズのOP-ED欄(政見投稿欄)というのは、
プロでもアマでも、その主張を投稿できる
「言論の自由に対して開かれたスペース」をうたってはいます。
が、どちらかというと「外野的立場の人間が政府にもの申す」的に
「噛みつく場」として捉えられることが多いので、
そこに出ただけで「米国政府に対する攻撃的意見」という色眼鏡で見られるのは
事前に覚悟しておくべきだったでしょうね。
ましてや、次期政権の首相になることを見越していたなら、
オバマ政権に対する希望なり忠告があるのなら、
なんでまた、外交のルートで正式に申し渡さなかったのか?
というのが、通常の米人が受け取る印象だと思います。
ここでもやはり、鳩山政権というか、民主党自体が
(スムーズなコミュニケーションのパイプをもたず)
欧米諸国との外交経験がないことを、暴露してしまったような失策です。
いつも日本を、政府だけでなく国民をも含めて
トータルに、公正にとらえられるべきだと思っている私からすると、
非常に不安に感じていた前兆を、裏付けされたような印象です。
早急に、外務省の経験豊富な官僚に尻拭いしてもらわないと、
すでに「Rebel(反逆者)」のレッテルが貼られてしまった鳩山氏、
今後の軍事・外交・経済、全局面での米国との交渉に
支障をきたすのではないかと、米国の親日派もみな心配していますよ。
今月下旬の、オバマとの会談でフィックスできるよう願ってます。
* 米国の代表的なニュース・時事評論ブログ HuffingtonPost に、
鳩山氏自身が起稿した一文
Japan Must Shake Off U.S.-Style Globalization
Yukio Hatoyama | Heads the Democratic Party of Japan
Posted: August 25, 2009 03:46 PM
今回のエントリは、前書きが長くなってしまったので独立させました。
昨日の記事、ニューズウィーク横田氏の鳩山外交に関する時事評論の後編は、
後続の記事で翻訳文をつけてアップしますので、よろしくご了承ください。
【米国時間 2009年9月2日『米流時評』ysbee】
◀ 次号「エイリアン鳩山+プーチン小沢=デンジャラス・ジャパン」
▶ 前号「ハトヤマ・ショック!米国の見る日本の政権交代」
記事リンク http://beiryu2.exblog.jp/10198080
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