タイム誌編集長が語る「今年のひと」プーチン
2007年の国際時事で もっとも注目された人物に選ばれたプーチン
ゴアを次点に下した今年の人・ロシア覇権の帝王と栄光復活への道
米国時間07年12月19日 | リチャード・ステンゲル/TIME編集長 | 『米流時評』ysbee 訳
ロシアの大統領としての彼の任期最後の年は、これまでの8年間の在位期間中でももっとも成功を収めた年であった。ロシア国内においては、彼自身の政治的未来を確約した。海外においては、彼はロシアの権威を拡張し、必ずしも穏やかな手並みではなかったが、グローバルな国際情勢に少なからぬ影響力を及ぼした。
Choosing Order Before Freedom
Russia’s Communist Party vows to contest results; U.S. urges investigation
DECEMBER 19, 2007 | By Richard Stengel — TIME Magazine | Translation by ysbee
His final year as Russia's President has been his most successful yet. At home, he secured his political future. Abroad, he expanded his outsize—if not always benign—influence on global affairs.
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DECEMBER 21, 2007 | 米 流 時 評 | ブログ雑誌『 楽園通信』デイリー版
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タイム誌編集長が語る「今年の人・プーチン」決定の理由
米国時間 2007年12月19日 | リチャード・ステンゲル/TIME誌編集長 | 『米流時評』ysbee 訳
1. The only nation in the upward winds
In a year when Al Gore won the Nobel Peace Prize and green became the new red, white and blue; when the combat in Iraq showed signs of cooling but Baghdad's politicians showed no signs of statesmanship; when China, the rising superpower, juggled its pride in hosting next summer's Olympic Games with its embarrassment at shipping toxic toys around the world; and when J.K. Rowling set millions of minds and hearts on fire with the final volume of her 17-year saga.
陰鬱な世界で唯一ポジティブな国
今年はといえば、アル・ゴアがノーベル平和賞を受賞して「グリーン」が赤白青の星条旗カラーにとって代わる基本色になった。イラクの戦闘は鎮静しつつあるが、バグダッドの政治家たちには国民を代表する意識は一向に見られない。一方で興隆するスーパーパワーの中国は、来年夏のオリンピック大会の開催地となる誇りと汚染商品のおもちゃを世界中に輸出した恥辱とを、交互に世界に投げつける。そして、英国のJ.K.ローリングは、17年間の彼女の連載の最終巻を完結して、数百万人のファンの心情に火を放った。
One nation that had fallen off our mental map, led by one steely and determined man, emerged as a critical linchpin of the 21st century. Russia lives in history—and history lives in Russia. Throughout much of the 20th century, the Soviet Union cast an ominous shadow over the world. It was the U.S.'s dark twin.
歴史を生きるロシア
その中でたったひとつの国だけが、われわれの陰鬱な心情を投影する地図からすっぽりと抜け落ちた。その国は、覚悟を決めた鋭いまなざしのひとりの男に導かれ、21世紀の鍵を握る存在として浮上してきた。
ロシアはその歴史の中に生きている。そして歴史はロシアの中に息づいている。20世紀の大部分を通して、ソビエト連邦は世界に対して何かしら陰鬱な影を投じ続けてきた。それはまるで陽気で健全なアメリカとは対照的な、双子の兄弟の病的な方の片割れ(冷戦の悪役)のような存在だった。
But after the fall of the Berlin Wall, Russia receded from the American consciousness as we became mired in our own polarized politics. And it lost its place in the great game of geopolitics, its significance dwarfed not just by the U.S. but also by the rising giants of China and India. That view was always naive. Russia is central to our world—and the new world that is being born.
新しいパラダイムの世界の中心に
しかし、ベルリンの壁が崩壊してからというもの、われわれが米国国内を共和党と民主党の両極に分断する政治的泥沼にはまっている間に、ロシアはまんまとアメリカ人の気付かないうちに米国を追い越そうとしているようである。それでもいまだに「ロシアは地政学的な冷戦ゲームではその地位を失った」とか、「国家としての重要性は、米国ばかりでなく今や起き上がった巨人となりつつある中国やインドとの競争でも縮小してきている」などと言う輩がいる。そういった見方は、いかなる場合でも単純すぎると言えるだろう。ロシアは今やこの世界の中心にある。そうした新しいパラダイムの世界が、今まさに生まれようとしている。
It is the largest country on earth; it shares a 2,600-mile (4,200 km) border with China; it has a significant and restive Islamic population; it has the world's largest stockpile of weapons of mass destruction and a lethal nuclear arsenal; it is the world's second largest oil producer after Saudi Arabia; and it is an indispensable player in whatever happens in the Middle East. For all these reasons, if Russia fails, all bets are off for the 21st century. And if Russia succeeds as a nation-state in the family of nations, it will owe much of that success to one man, Vladimir Vladimirovich Putin.
地上最大の国家の最高権力者
ロシアは実質的に地上最大の国家である。中国と接する国境線は延べ2600マイル(4200キロ)。国内には相当数の穏健派ムスリム教徒を抱える。世界最大の大量殺戮兵器と核兵器を保有する。サウジアラビアに次いで世界で2番目の石油産出国である。そして特筆しなければならないのは、万一中東で何が起った場合でも、紛争のメインプレーヤーであるという事実である。
これらすべての理由をひっくるめて、もし万が一ロシアが国家として失敗するならば、これから先の21世紀は何でもありの混沌に陥ることだけは確かである。さらに、今後もしロシアが周辺国家の連合体としてひとつの統一した国家形態を形成するのに成功したら、その理由の多くはたったひとりの男の成功に負うことになるだろう。ウラジミール・ウラジミロヴィッチ・プーチン。
No one would label Putin a child of destiny. The only surviving son of a Leningrad factory worker, he was born after what the Russians call the Great Patriotic War, in which they lost more than 26 million people. The only evidence that fate played a part in Putin's story comes from his grandfather's job: he cooked for Joseph Stalin, the dictator who inflicted ungodly terrors on his nation.
レニングラードの一介の労働者の息子
誰もプーチンに「運命のおとしご」とブランドづけしようとはしない。彼は、レニングラード(現サンクトペテルスブルク)の一介の工場労働者の家に生まれた、兄弟の中で唯一生き延びた息子である。彼は、ロシア人が「the Great Patriotic War/大愛国戦争」と呼ぶ2600万人もの命が失われた内紛が、ひととおり治まった時代に生まれた。プーチンの生い立ちの逸話の中で「世紀の運命」らしきものがもし宿っているとすれば、その唯一の証しは彼の祖父の職業に由来するだろう。この父方の祖父は、神をも怖れぬ恐怖政治で祖国ロシアを恐慌に陥れた独裁者そのひと、ヨシフ・スターリンお抱えの調理人のひとりであった。
When this intense and brooding KGB agent took over as President of Russia in 2000, he found a country on the verge of becoming a failed state. With dauntless persistence, a sharp vision of what Russia should become and a sense that he embodied the spirit of Mother Russia, Putin has put his country back on the map. And he intends to redraw it himself. Though he will step down as Russia's President in March, he will continue to lead his country as its Prime Minister and attempt to transform it into a new kind of nation, beholden to neither East nor West.
プーチンの「祖国は誰のものぞ」
かくしてこの堅物の生真面目なKGBのエージェントが、2000年についにはロシアの大統領の地位に納まったとき、彼が目にしたこの国は、このままでは瀕死の状態に陥る寸前の危機に面していた。母なるロシアンスピリットを自ら体現する地に根を張った不屈の精神と、ロシアはいかにあるべきかという明快なヴィジョンを掲げて、絶え間なく果敢な決断を積み重ねて進むべき道を切り拓きながら、プーチンは祖国をふたたび世界地図の真ん中に位置づけた。
そしてその地図を彼自身の手で、今また書き変えようとしている。来る3月には彼はロシアの大統領の座を降りる予定だが、そのあとは今度は新しい首相として祖国を牽引し続けるつもりである。さらにはそのロシアを、西欧にも東洋にも先例のない、まったく新しい概念の国家に変容しようと企てている最中である。
TIME's Person of the Year is not and never has been an honor. It is not an endorsement. It is not a popularity contest. At its best, it is a clear-eyed recognition of the world as it is and of the most powerful individuals and forces shaping that world—for better or for worse. It is ultimately about leadership—bold, earth-changing leadership.
善かれ悪しかれ最強の権力者
今年のタイム誌の「パースン・オブ・ジ・イヤー」の選出は、いまだかつてない栄誉にみちたものである。この選定の基準は、公認のお墨付きでもなければ人気投票によるものでもない。端的に言えば、善きにつけ悪しきにつけ「この世界を動かす最も強力なパワーを持った個人、あるいは組織。(過去にはオサマ・ビンラディンやサダム・フセイン、昨年のブッシュ大統領の例もある)言ってみれば究極的には、地球の現状を変えるほど大胆で強力なリーダーシップにほかならない。そうした現時点での世界への影響力を、覚めた目で見た認識の表象である。
Putin is not a boy scout. He is not a democrat in any way that the West would define it. He is not a paragon of free speech. He stands, above all, for stability—stability before freedom, stability before choice, stability in a country that has hardly seen it for a hundred years.
ロシアには何よりもまず安定を
プーチンはボーイスカウトではない。彼はどう見ても、西側諸国が定義づけるような民主主義者ではない。彼は言論の自由の礎石でもない。彼がしょって立つ信念は、何よりもまず「stability=安定」である。自由よりも先に安定。選択の自由にもまして安定。自由よりも民主主義よりもなによりもまず先にロシア人に与えなければならないのは、「国家の安定」なのである。なにしろこの国は、これまでの百年以上もの間動乱の連続だったのだから。
Whether he becomes more like the man for whom his grandfather prepared blinis—who himself was twice TIME's Person of the Year—or like Peter the Great, the historical figure he most admires; whether he proves to be a reformer or an autocrat who takes Russia back to an era of repression—this we will know only over the next decade. At significant cost to the principles and ideas that free nations prize, he has performed an extraordinary feat of leadership in imposing stability on a nation that has rarely known it and brought Russia back to the table of world power. For that reason, Vladimir Putin is TIME's 2007 Person of the Year.
現時点での歴史的人物
はたしてこの先プーチンは、彼の祖父がブリニスをこしらえて捧げた男、そして当タイム誌の「パースン・オブ・ジ・イヤー」に二度も選ばれた男(スターリン)の存在にますます似てくるだろうか? あるいは、彼自身がもっとも尊敬する歴史上の人物である、ピヨトール大帝のような帝王になるだろうか? それとも、ロシアを不況のどん底から甦らせた中興の改革者、あるいは切れ者の官僚と呼ばれるにすぎないのだろうか?
その答えは多分、あと数十年たってみなければわからないだろう。
自由主義国家が賞賛する民主主義の基本や理想といったものを犠牲にしてまで、いまだかつて安定した社会というものをまれにしか見たことがなかった国家を安定させるために、とてつもない踏んばりをきかせてこの国を引っぱってきた男。そしてロシアという国を、ふたたび世界のスーパーパワーの国際的舞台に押し上げた男。そういう理由で、TIME誌の2007年の「Person of the Year=今年の人」は、ウラジミール・プーチンなのである。
【米国時間 2007年12月21日 『米流時評』ysbee 訳】
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序 章 「プーチンの過ぎゆくままに」米国とロシアの『戦争と平和』
第1章 「メドベージェフ登場」プーチン次期後継者を指名
第2章 「明日のプーチン」メドべージェフ、プーチンを首相に逆指名
第3章 「ユーラシア連邦の野望」ポストプーチン時代の予測
第4章 「クレムリンの暗闘」プーチン王朝内部のパワー闘争
第5章 「プーチニズムの踏襲」次世代ロシア時代の到来
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by ysbee-2
| 2007-12-21 14:14
| プーチンのロシア