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米流時評

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ブットの暗殺「テロ戦争と核と米国政治」

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  ||| 米流時評 ブットの暗殺と米国政治 |||
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元首相ベナジル・ブット、ラワルピンジでテロリストの凶弾に倒れる
予期された暗殺、予告された死へ生き抜いたパキスタン民主化の闘士


ブットの暗殺「テロ戦争と核と米国政治」_d0123476_18552829.gifとうとう予期していた凶事が起きてしまった。パキスタンの将来をになう鍵を握る人物と嘱望されていた元首相ベナジル・ブット女史が、ついに凶弾に倒れた。27日木曜パキスタンの軍都ラワルピンジで白昼堂々の暗殺テロである。


イスラム過激派の暗殺テロ?
イスラム過激派と見られる犯人は、選挙遊説中の車のサンルーフから上半身をのり出したブット女史を後方から拳銃で狙撃し、そのうちの2発が命中した直後に自爆して自ら命を絶った。詳細はこのあとの速報記事の翻訳で掲載するが、ムシャラフ政権と反対派の間隙を埋める中道派として広く国民の支持を集め、パキスタンの民主化の最後の頼みの綱だったブット女史の暗殺で、国民をわずかに平静の柵につなぎ止めていた鎖は断ち切られた。
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覇権のための暗殺
ムシャラフ政府の捜査当局は、事件直後からタリバン犯人説を公表したが、犯人説は幾通りも考えられる。ムシャラフの諜報説。反対派の同盟を結んだが実は首相職をめぐってライバルのナジャフ・シャリフの刺客説。あるいは、ムシャラフ傀儡政権の存続を願うブッシュ政権のスパイ説。ブット自ら死を覚悟し「もし私が死んだら、それはムシャラフ政権内のある人物のせい....」と各国要人・メディアにメールを送っていたブット。ここまで公然とマークされている人間が、果たして筋書き通りの暗殺劇を実行するだろうか? いや、権力にしがみつこうとする者は手段を選ばずに「やる」だろう。
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ムシャラフ政権への人民蜂起
パキスタンは現在何が起っても不思議ではない。11月の戒厳令と大弾圧以来、政治と軍事と治安の三鼎が一挙にバランスを失って危うい回転を続ける難局に対面している。今回の暗殺事件に際したムシャラフ政権のコメントでは、事件はイスラム過激派によるテロであるから、まるで政府には責任がないかのような言い草である。ブットの率いるPPPパキスタン人民党が治安当局に再三要請していたセキュリティが履行されなかったことで、国民はムシャラフ政権に怒りをぶつけ、パキスタンの各地で反乱が起きている。警察や軍隊の警備兵に対して歯向かう、いわば人民蜂起である。
一夜明けると、インド・カシミール地方のイスラム圏にまで飛び火している。ただごとではない。
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ブッシュ政権パキスタン戦略の失敗
しかし、イスラム過激派とのテロ戦争の地元の同志として、パキスタンに大いに肩入れし、アフガン侵攻以降毎年、7年間で100億ドル(1兆1400億円)という膨大な軍事援助費をあてがってきたブッシュ政権にとって、イスラム過激派テロによるパキスタンの社会不安は、米軍事外交政策の失敗の証明以外の何者でもない。現在の米国のすべての問題の根源、9/11以降のテロ戦争のネオコン的展開に、ほとんどの国民からそっぽを向かれている現政権。未だにオサマ・ビンラディンひとり捕まえられない無様な結果に、米国民は業を煮やしている。しかも、アフガニスタン、パキスタンともに、国境のパシュトゥン族の部族自治区一帯は、昨年来アルカイダとタリバン勢力が覇権を復活し、ムジャヒディーンが跳梁跋扈する「タリバニスタン/ジハディスタン」の無法地帯に舞い戻ってしまった。
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'08年大統領選への微妙な影響
今回の暗殺事件で、これまでパキスタンに投下してきたテロ戦争援助費用は何だったのか、という米国議会での追求も年明けにあるだろう。新年早々の1月3日にアイオワで火ぶたを切る大統領選挙の予備選にも、大きな影響を及ぼすものと予測される。ブッシュ政権を支持する候補者にはさらなる痛手である。反対に、当初から「テロ戦争とは石油利権のための『ブッシュの戦争』である」と主張し続けてきた民主党のバラク・オバマ、共和党のロン・ポールなどにとっては、「それ見たことか」の追い風である。選挙事務所職員の不祥事が続いて下落気味だったヒラリー・クリントンは、夫君が大統領時代にパキスタンの首相だったブット女史との親交を持ち出して、お門違いの点数稼ぎに走っている。共和党で苦戦におちいっているジュリアーニ候補は、9/11当時ニューヨーク市長として活躍した実績を盾に、ここぞとばかり「テロ対策なら私が」と売り込みに忙しい。
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選挙戦にも「ブット・イフェクト」
割りを喰ったのは、彗星のごとく現れ、柔和な中道派として人気が急上昇していた共和党のマイク・ハッカビー候補。コメントの中で図らずも「12月15日にパキスタンの戒厳令が解除になった事実」を知らなかったことを暴露してしまった。米国の全メディア一面トップで大々的に報道された朗報だったが、彼もブッシュ同様に新聞・テレビはいっさい見ないタイプなのだろうか。1度ならご愛嬌で済むが、つい先々週も新しい「NIE」に関してどう思うかという記者の質問に対して答えられず、「What is NIE?」と聞き返すお粗末。これではアーカンソー州知事としては勤まっても、新冷戦時代の軍事外交は任せられない、と傾倒していた有権者が引き潮のごとく去っていったようだ。
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核のテロリズムの悪夢
しかし一番怖い事態は、パキスタンの社会混乱が深刻化して動乱状態に陥れば、治安の手が回らなくなり「核の施設」が過激派の格好の襲撃対象になることである。何が怖いと言って、核兵器=原爆がテロリストの手中に陥る悪夢の現実化ほど恐ろしい脅威はない。それ以上の推測は背筋が寒くなる。映画『Sum of All Fears』のプロットをなぞるような結果を招くだろう。
米国では、早くも米軍の治安出動の議論も出ている。(民主党ビル・リチャードソン候補提案)治安取締の対象が「核」であるだけに、極めて慎重かつ火急の対処が必要だろう。そうした場合に米国一国だけで動けば、イラクの二の舞である。EU、NATOとも緊急会議を開く必要性に迫られる。ことはパキスタン国内のドメスティック処理で済まない深刻な問題であることは、対象が核兵器であるだけに容易に察せられるからだ。
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テロ戦争のグローバル化
核の汚染に国境はない。もしも核施設がテロリストの簒奪あるいは襲撃の対象になれば、極めて近い将来NATO連合軍や国連軍の出兵も見込まれるかも知れない。日本もテロ戦争に関しては「他山の石、外つ国の争乱」と腕組みして傍観している場合ではない。パキスタンの治安が日本の社会情勢を左右する時代に、とうの昔になっている。それは9/11のあった2001年からかもしれないし、その前年ブッシュが大統領に当選した冬からかもしれない。情報のグローバル化が社会の表層に見えない皮膜を張る以前から、グローバルウォーへの歴史の傾斜はすでに始まっていたのである。

ともかくまず最初に、パキスタンからの暗殺事件の一部始終を伝えるAP通信の速報を、その次には、第一報から3時間あまりで力のこもった論評をNewsweekのサイトに掲出したマイケル・ハーシュの特別寄稿の評論記事を、数回に分けて紹介していきます。
【米国時間 2007年12月27日『米流時評』ysbee 記】

*トップの写真は1967年彼女の父親がムシャラフの前政権によって投獄処刑された時点でのベナジル・ブット/
以下掲出の写真は米国メディア各社の第一報を伝えるサイトのトップページ:一番上から時事週刊誌Newsweek MSNBC、CNNニュース、ワシントン・ポスト紙、ニューヨークタイムズ紙、ABCニュース、英国のBBCニュース
/右下の写真はワシントンのパキスタン大使館にしつらえられたブット女史へのcondolence=弔問記帳テーブル


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【ブット関連ビデオアーカイブ/Newsweek】ブットの暗殺「テロ戦争と核と米国政治」_d0123476_8565722.jpg
2007/12/27 暗殺事件当日のビデオ

Raw Video: Bhutto Dies in Blast/爆破直後の臨時ニュース
Pakistan: Bhutto Assassinated/ニュース速報:ブット暗殺
Karzai: Bhutto 'Sacrificed Her Life'/カルザイ大統領の声明
State Department on Bhutto Killing/米国国務省からの声明
Bush Reacts to Bhutto Killing/ブッシュからの弔問声明
Pakistanis in New York Speak Out/在米パキスタン人の反応

2007/10/18 ブット帰国パレードでの自爆テロ関連
11/13/07 Archive: More Curbs on Bhutto/ブットの選挙活動
10/19/07 Archive: Bhutto Condemns Attack/テロ撲滅宣言
10/18/07 Archive: Explosions Rock Pakistan/自爆テロ現場
10/18/07 Archive: Bhutto Back in Pakistan/ブットの帰国


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11/04 戒厳令と米国 前編「民主化十字軍ブッシュのジレンマ」
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by ysbee-2 | 2007-12-27 11:56 | パキスタン戒厳令の季節
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