米流時評 米大統領選の先読み・民主党編


民主・共和両党ともトップ3確定か 三つ巴必至の実力伯仲大統領選

今回は今年11月実施の米国大統領選全国投票をゴールに、その予備選がスタートした直後で早くもドラマが展開されて、日本の皆さまも従来よりは興味をもたれているように思えますので、私なりの今後の展開への読みをご披露したいと思います。元々1ページの長い記事でしたが、書き足している間に当初のテキストが記事コンテンツの字数制限を超過してしまったので、前編を民主党の、後編を共和党の紹介にふり分けて、改めて2編でお届けします。

予想なんてものははずれるためにあるようなものだ。軒並み当ったら評論家はお払い箱になるし、(余計な心配だが)代理店のアンケート調査部門がクローズする。ハズレを前提として思いきって予測してみよう。選挙戦ダービー開幕前の専門家の予想に反し、当初は百家争鳴で誰が浮上するか皆目見当がつかない混戦状態だったが、次第に焦点が絞られてきた。民主・共和の両党とも本命トップ3が決まりつつあるように見えるのは確かだ。共和党はマケイン、ロムニー、ハッカビー。民主党はオバマ、クリントン、エドワーズである。

アイオワの初戦直後に引退表明したクリス・ドッド、ジョー・バイデン両候補は消えた。ジョー・バイデンはすでに6期を務める超ベテラン上院議員で、外交委員会の議長を務め国際的舞台で問題が起きる度に洞察力のある鋭い判断を表明して、個人的には大いに支持している政治家である。ただし、もし彼がホワイトハウス入りしたら外交委員会がガタガタになるという心配もあった。この人は大黒柱になるにはアクが強いのが難だが、危機に直面した場合に的確な判断を下すつっかえ棒としては非常に頼りになる御大なので、上院の重鎮としての立場を継続してほしい。

「史上初のヒスパニック=メキシカン候補」のニューメキシコ州知事ビル・リチャードソンは、ニューハンプシャー州予備選の翌日に撤退表明をした。米国の西南部、テキサス州、ネバダ州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、そして大人口を抱えるカリフォルニア州まで、今や黒人を抜いてマイノリティ人口のトップに立ったヒスパニックの大票田。彼が退いたあと、残った民主党候補の誰に引導を渡すかで、ヒスパニック票の流れ込む勢いが各候補の集票パワーをチャージする。もっとも彼はビル・クリントン大統領時代に国連大使に抜擢された経歴があるので、ヒラリーとの間に何もわだかまりがなければ、すんなりクリントン陣営に参入するだろう。

ジョン・エドワーズが各地の遊説先での演説で必ずさしはさむエピソードは、彼の生い立ちである。彼はサウスカロライナ州の小さな町セネカの出身。ビル・クリントンの出身地アーカンソーのHOPEと似たり寄ったりの、南部のどこにでもあるスモールタウンのひとつ。クリントンは片親で、アル中の継父に虐待された子供時代を送っている。ひきかえ、エドワーズはいまだに両親健在である。父親は小さなMill=綿糸工場の工員、母親はSeamstress=縫製工。確かに政治家としては逆境の生い立ちだが、ケニア人の父と白人の母を持つ移民2世で、両親が離婚後10才までインドネシアで暮らしたバラク・オバマと比べれば「Against the odds=逆境を克服する」というレバレッジの強さでは負ける。

彼の両親とも教育熱心で、貧しい家庭ながら息子を大学へ行かせ、卒業後は弁護士の道を歩み「訴訟弁護士」として頭角を現し成功。その後いきなり上院議員に当選。04年の大統領選に立候補し、ジョン・ケリーが候補指名された直後に副大統領候補としてコンビを組んだが、ブッシュ・チェニー陣営に負けた。その後も今期の大統領選を目指して、各州の労働組合の支援をとりつけてはいるが、米国の場合個人主義が徹底しているため、組織票というのは機能しにくい。女性票のクリントン、黒人・マイノリティ票のオバマと比較して、エドワーズの場合ここと限定抽出できる票田が希薄である。絶対と呼べる決め手がなく、すべてにおいて二番手のエドワーズは「そこはかとなく中道」の浮動票をかき集めるしかないようだ。

サウスカロライナ州: オバマ/エドワーズ/クリントンの順ですべて1〜2%の僅差。誰が勝ってもおかしくないが、地元出身のエドワーズを黒人票のオバマが抜く。
ネバダ州: オバマ/クリントン/エドワーズの順。オバマにはラスベガスを控えるネバダ州の飲食業従業員労組が一昨日支持を表明、昨日はネバダ州知事が支持という好調が続いている。だが、ヒスパニックに強いビル・リチャードソンがクリントンに引導を渡せば、メキシコ系の多いこの州で彼女が首位になる可能性も。

民主党の有力候補をひととおり見てきたが、今回ほど絶対優勢の突出した候補がいない選挙戦は、過去には存在しなかったようだ。どんぐりの背比べに聞こえるかもしれないが、両党のトップ3は皆充分政治家としての魅力を備えている。実力伯仲の三つ巴という方が当っているだろう。オバマ、クリントン、エドワーズの3人がいつまでも三鼎のバランスのまま続くならば、アル・ゴアを引っ張り出そうと躍起になっているグループもいる。しかしいくらノーベル平和賞の箔がついても、彼は一度敗北を喫した「ブッシュにさえ負けた候補者」である事実は動かしようがないので、現在のオバマ以上の人気を獲得できるとは思えない。

また、保守系の強力な無所属候補が両党の圏外で出馬表明すれば、最終的に残った候補の公約に飽き足らない民主党穏健派の票をかき集める事態も充分考えられる。過去にも96年のロス・ペロー、04年のラルフ・ネーダーなど、無所属の「第三の男」が無党派の浮動票を吸い取るindependent sponge役を果たしてきた。ただ今後の選挙戦が展開する中で、苦戦を強いられる2位と3位が正副大統領候補として合体すれば、突然最有力候補に躍り出る可能性があるわけで、レースが進行するほど予測できない驚愕のドラマが展開するにちがいない。11月の国民総選挙までまだまだ日数はあるが、長年大統領選専門の分析を行なってきたアナリストの言を借りれば、1942年以来「米国史上最も予測できない大統領選」という結論だけは、今から確定しているようだ。 »» 続く
【米国時間 2008年1月11日 Analyzed by『米流時評』ysbee】



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by ysbee-2
| 2008-01-11 15:24
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