米流時評 シリア核施設とホルムズ海峡事件の謎を解く

米流時評 シリア核施設再建設発覚とホルムズ海峡事件の謎を解く
昨年9月にイスラエルの戦闘ジェット機が爆撃し破壊したと見られたシリアの核施設建設現場で、以前と同様の主要棟に見える施設を再度新たに建設工事中であることが、衛星写真によって確認された。このニュースは米国時間1月11日の時点で、ニューヨークタイムズを始めとする米国メディアで発表された速報である。
ダマスカスの南東30キロのシリア砂漠に位置するこのサイトは、これまでもたびたびサテライトから撮影されてきている。『米流時評』では9月イスラエルが爆撃した直後に中東核戦争の特集を組み、その時のイスラエル、シリア、そして近隣アラブ諸国と米英間に発生した緊張と危機の詳細を全10編にわたって緊急特集でお伝えした。
▶特集『中東核戦争』本編の最後に各記事のリンクあり

2. 中東情勢におけるシリアの立場
しかし、今回は速攻で爆撃という展開にはいたっていない。多分ブッシュ大統領が中東和平を大義名分に掲げて中東諸国を歴訪している最中だからであろうか。しかも、シリアが米国推進の中東和平の道程に協力を申し出たという、思いがけない展開もある。こういう危機に際して、シリアのアサド首相は常に見極めが早くて鋭い。昨年3月のイラン領海侵犯による英国水兵拿捕事件の際にも、シリアが英国とイランとの間を仲介する交渉役として奔走し、一時は英国対イランの衝突かと思われた危機を避けられた事実は、記憶に新しい。

3. イラン孤立化へのパワーシフト
シリアがもしもブッシュの提案する中東和平協定に対して、賛同者として調約する場合には、これまで長年敵対状態にあったイラン陣営の強力な援軍を切り崩して西側に取り込むことになり、米英仏にとっては中東においてイランを孤立化に追いやるドラスティックなパワーシフトへの、確実な布石となる。

4. 衛星写真発表のタイミングに疑問
私が疑問に思ったのは、この核施設建設現場は爆撃で破壊された後も観測が続けられていたはずで、ブルドーザーで地ならしされた時点まではメディアでも発表されていたが、その後建設が進められていた事実を12日まで知らなかったはずがない。核施設疑惑の地点ならば、定点観測を続けるのが素人考えでも当然の処置だと思える。それならば、なぜ今この時点で発表したのだろうか。
▶復讐の世紀「核のアルマゲドン」中東戦争

5. ブッシュ中東歴訪とシンクロするタイミング
ひとつには、もちろんブッシュの中東訪問との絶妙なタイミングまで、満を持してホールドしていたことが考えられる。中東歴訪の最中にここぞという時点でシリアの首の根をおさえれば、和平に協力せよといういかなる条件も通りやすくなるからであろう。イランへの威嚇としてこれほど効果的な舞台設定はない。

6. ホルムズ海峡イラン艇事件
この時期にぶつけたもうひとつの事件、ホルムズ海峡でのイラン船舶と米海軍巡視艇のニアミスは、初めから怪しげな演出が匂ったが、その後やはり「偽装演出」とは言い切れないが、威嚇の実態はなかったらしいことが連日のニュースで暴露された。「近寄れば爆発物を投げる」というイラン艇から発せられたと思われた威嚇アナウンスは、「何者かの偽装」である疑いが濃くなった。どこから聴いても、かのキッシンジャーの声にそっくりな平板なコンピュータボイスで、当初からおかしいと思った直感は当っていた。

7. 中東パワーシフトへの点と線
もうひとつ考えられるのは、シリアは昨年イスラエル機に爆撃された時点で、すでに白旗を掲げていたのではなかろうか、という憶測である。あの時点で何らかの条件をシリアから引き出さずに放置したとは考えにくい。しかしシリアも、おいそれとイランと訣別できる政治情勢ではない。なにしろ国境を接する隣国で、同じシーア派の兄弟分のイスラム国家である。イランに反旗を翻した時点で速攻でミサイルが打ち込まれて、国土が蜂の巣状態になるのは目に見えている。

8. アナポリス中東会議へのシリア参加
このシリアの「西側への足入れ状態」を説明するのが、昨年11月のアナポリス中東会議だろう。ブッシュ政権主催の中東平和会議に最終的にシリアが参加して、東西の国際情勢を知る者を驚かせたのを覚えておいでだろうか。私は、このシリアの突然の変節には絶対ウラがあるとひっかかっていた。
2007年後半
1. 07年09月26日 イスラエルによるシリア核施設の爆撃
2. 07年11月27日 アナポリス中東平和会議へシリア参加
3. 07年12月07日 ブッシュ、中東歴訪旅行を発表
2008年初頭
4. 08年01月07日 ホルムズ海峡でイラン艇が米海軍艇に接近威嚇
5. 08年01月11日 シリア核施設再建工事の衛星写真発表
6. 08年01月12日 米国「サウジアラビアへ200億ドルの兵器輸出」契約成立
7. 08年01月12日 米国「アフガニスタンへ米海兵隊3800名緊急派兵」声明
8. 08年01月13日 ホルムズ海峡事件でのイラン艇威嚇アナウンスは何者かの偽装

9. まだ誰も気がついていないプロット
こうして一連の事件やできごとをつなぎ合わせて推理すると、最初のイスラエルによる爆撃はあったとしても、その後の流れは、シリアを西側へと取り込むためのステップバイステップに思えるのである。特に最後の核施設再建の衛星写真がなぜ今発表されるのか。ホルムズ海峡でのニアミスがなぜ演出されたのか。ブッシュ政権のやり口を8年間見てきたので、私の推測は次の通りだ。
▶2008年核戦争の冬/チェニーのウォープラン

10. すべてはイラン攻撃のために
ネオコンはブッシュが政権在位中に、なんとしても本来の中東戦略のゴールだったイラン侵攻へ持ち込みたい。そのために、すでにイランの西隣イラクと東隣アフガニスタン、パキスタンは抑えてある。残るは中東でのイランの最大の味方であるシリアを切り崩すことが何としても必須だ。しかしシリアを直接攻撃すれば、イランにイラク駐留米軍への攻撃理由を与えてしまう。したがって多分昨年から、米国はシリアとの裏口交渉を重ねて来たに違いない。
▶復讐の世紀「核のアルマゲドン」中東戦争
11. 中東カルテット ブレア特使の役割
イランによる英国水兵拿捕事件以来、折衝役となったシリアと英国との間の敷居は取り払われた。シリアの外相を介して、ブレアとシリアのアサド大統領は、一度ならず会談を持っているはずである。両者ともアナポリス会議で同席している。この秘密裏の交渉の舞台で、英国のブレア中東特使が暗躍したのは想像に難くない。米国国務省は表面だって動く訳にいかないが、ブレアなら中東特使の肩書きでフリーパスだからである。
▶ブレアの再出発・中東平和外交代表

12. 国家の陰謀、百年の大罪
つまりこれまでの点をつなげてみると、米英西側2国がシリアを取り込むために、シリアに不利な「核施設発覚」という事実を発表して、表向きはシリアがいたしかたなく米英に降参した形をとるが、その実態は「イラン孤立化のための三国の密約協定があった」と仮説を立てると、全ての謎と疑問が逆方向から解けてくる。犯罪を立証するには犯罪者の心理に立ってみよ、という鉄則を応用してみればよい。国家間の陰謀というのは、犯罪の中でも最もインテリジェントな、最も罪深い犯罪である。なにしろ国民を欺いて、計画の成否に国家の針路を賭けるのだから。
▶ホワイトハウスのウォーゲーム/中東核戦争のシミュレーション
【米国時間 2008年1月13日『米流時評』ysbee 記】

»» 次号「パキスタン危機/ポスト・ブットの政情レポート」へ続く

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