米流時評

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米流時評「バグダッドの街に雪が降る」

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    ||| バグダッドの街に雪が降る |||

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記憶の底に沈む前に伝えたいバグダッドからのささやかなニュース
シーアを眠らせ、シーアの屋根に雪降り積む....


d0123476_18552829.gif今月早々に大統領選の予備選に入ってからというもの、連日民主・共和両党の有力候補が熾烈なレースを展開する記事をお伝えしてきた。米国だけでなく世界の耳目を集める今年の大統領選。4年に一度、いやブッシュ戦争政権になってからは8年ぶりの米国内政だけでなく世界の趨勢を変えるターニングポイントになる重要な契機の選挙である。戦争か平和か。私にとっての最大の関心事は、この一点にある。

それはイラクでも、アフガニスタンでも、パキスタンでも、イランでも、アメリカが関わり合っているテロ戦争の現場、あるいは将来の戦場と目されている国の国民にあっても多分同じ事だろう。20世紀の大いなる影をひきずるこの国家の采配がいったい誰の手中に納まるのかを、きっと誰もが同じように祈る思いで、固唾を飲んで見守っているに違いない。
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願わくば平和を。恒久でなくても良いから、まずは休戦を。そんな思いを新年の願にかけて明けた2008年。年が明けてもあいも変わらず、アジアからもアフリカからも危機的ニュースが絶え間なく流れ込む時事の合間を縫って、1月のある日、ひどく叙情的なタイトルが目を引いた。
「When Snow Falls in Baghdad...」はてな?南の島に雪が降るじゃあるまいし、雪が降ってどうしたというのだろう……といぶかしく思って読んだのが、この下に続く記事である。

文字通り「バグダッドに雪が降った」という、ただそれだけのニュースだった。しかし「バグダッド/ファルージャ/ラマディ/Whereverで、IED/ロケットミサイル/自爆テロ/Whateverによって、米兵何名/イラク市民何十名死亡」という見出しを、来る日も来る日もイラク侵攻以来5年間見続けてきた米国に住む者の目には、そんな当り前の季節の風物詩的話題がよりによってバグダッドから伝わってくる事自体が、いまだかつてない奇異なできごとであり、驚きでもあった。
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米兵・イラク兵混成パトロール隊の叛徒捜索で荒らされた教室に登校したバグダッドの小学生 めげないで!

そして、その記事を読んだあとに残ったもの。それはこの5年間の殺伐としたイラクからのニュースの堆積を洗い流してくれる、小さな奇跡のような清々しさだった。
日常の美談に事欠かない日本の方が読んでも別にどうということもない、日々のエッセイのように小さな記事だが、記憶の底にしまい込む前にやはり一度お伝えしておこうと思い直し、10日も前のニュースではあるが、あらためて訳してお届けする次第である。

【日本時間 2008年1月20日『米流時評』ysbee 記】

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JANUARY 20, 2008 | 米 流 時 評 | ブログ雑誌『 楽園通信』デイリー版f0127501_6213945.jpg
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 A s s o c i a t e d P r e s s | I R A Q

イラクからの小さなニュース 「バグダッドに雪が降る時...」
米国時間 2008年1月11日 | AP通信 バグダッド支局発 | 『米流時評』ysbee 訳

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When Snow Falls in Baghdad...
Well it did! Iraqi capital wakes up to first snowfall in memory
JANUARY 11, 2008. | Associated Press — BAGHDAD | Translation by ysbee
BAGHDAD — After weathering nearly five years of war, Baghdad residents thought they'd pretty much seen it all. But Friday morning, as muezzins were calling the faithful to prayer, the people here awoke to something certifiably new. For the first time in memory, snow fell across Baghdad.

バグダッド市民を驚かせた朝
5年も続く戦争をうんざりするほど経験してきたバグダッド市民は、大概の事を目の当たりにしてきたので、ちょっとやそっとでは驚かないはずだった。しかし11日金曜の朝、モスクの尖塔から毎朝の祈祷の呼びかけが流れてきた頃、この街の住人は目を醒ますと同時に、とんでもなく目新しいものを目にした。誰もの記憶にある限り初めてのことで、バグダッドの町中に雪が降っていた。
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1. 'For the first time in my life....'
Although the white flakes quickly dissolved into gray puddles, they brought an emotion rarely expressed in this desert capital snarled by army checkpoints, divided by concrete walls and ravaged by sectarian killings — delight. "For the first time in my life I saw a snow-rain like this falling in Baghdad," said Mohammed Abdul-Hussein, a 63-year-old retiree from the New Baghdad area.
生まれて初めて見る雪
ひらひらと空から舞い降りる白い雪片は、地面に落ちるとやがてすぐに灰色のぬかるみに消えていく。軍隊の検問所がいたるところに点在し、どこまでも続くコンクリートの巨大な防護壁で分断された街。宗派の対立抗争で痛めつけられた、この殺伐とした砂漠の首都。ここでは市民はめったに感情を表に出さない。しかし今朝ばかりは、誰もが思わず感情を現さずにはいられなかったようだ .... 純粋な喜びを。「長いこと生きてるが、バグダッドに『雪雨』がこんなふうに降るのは初めて見た」こう語るのは、バグダッドの新興住宅地に住む今年63才のご隠居モハメッド・アブドゥル・フセイン氏である。
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2. Only in the early '40s
"When I was young, I heard from my father that such rain had fallen in the early '40s on the outskirts of northern Baghdad," Abdul-Hussein said, referring to snow as a type of rain. "But snow falling in Baghdad in such a magnificent scene was beyond my imagination." Morning temperatures uncharacteristically hovered around freezing, and the Baghdad airport was closed because of poor visibility.
1940年初頭に一度降っただけ
「40年代の初めにバグダッドの北のはずれでこんなふうな『雨』が降ったという話を、私がまだ小さい頃父親から聴いた事があるよ」フセイン氏がこう言うところをみると、その時の雪は一種のみぞれのようなものだったらしい。「でも、こんなふうに素晴らしい雪景色になるまでバグダッドに雪が降るなんて、想像したこともなかった。」たしかにこの朝の気温はイラクには珍しい氷点下前後の寒さで、視界が悪いためにバグダッド・エアポートが閉鎖するほどだった。
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3. Uncommon except Kurdish mountains
Snow is common in the mountainous Kurdish areas of northern Iraq, but residents of the capital and surrounding areas could remember just hail. "I asked my mother, who is 80, whether she'd ever seen snow in Iraq before, and her answer was no," said Fawzi Karim, a 40-year-old father of five who runs a small restaurant in Hawr Rajab, a village six miles southeast of Baghdad.
クルド地区以南では前代未聞
イラク北部クルド自治区の山岳地帯では、冬には当り前に雪が降るが、首都バグダッドと近隣の住人は、みぞれぐらいしか記憶にないようだ。
「私は80になる母親に、今までイラクに雪が降ったのを見た事があるかどうかたずねてみたんですけどね、彼女の答えはノーでしたよ」こう言うのは、バグダッドの南西6マイルにあるハウル・ラジャブ村で小さな食堂を営む、二児の父親で今年40才になるファウジ・カリムさんである。
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バグダッドにもやや平穏が戻りつつある 左から米兵目当てのジュースバー(イスラム教ではアルコールは御法度)/中:イラク料理ケバブ(串焼き)のプレートを供する屋台 /右:ブッチャーに見えるが、れっきとした食堂の親父 手にしているのは牛の頭パチャ これがイラク人の朝食! この写真を見て以来米軍はイラク人には勝てないと思った

4. Snowing seen only in the movies
"This is so unusual, and I don't know whether or not it's a lesson from God," Karim said. Some said they'd seen snow only in movies. Talib Haider, a 19-year-old college student, said "a friend of mine called me at 8 a.m. to wake me up and tell me that the sky is raining snow." "I rushed quickly to the balcony to see a very beautiful scene," he said.
映画のシーンでしか見たことのない雪
「こんなことはとっても珍しいですよ。もしかしたら、神様からのお知らせか何かかもしれませんね」そうカリム氏は言った。バグダッド市民のある者は、雪なんて映画の中でしか見た事がないと言う。19才の大学生タリブ・ハイデールさんは、この珍しい体験を次のように語っている。
「今朝は8時に友達からの電話で起こされました。彼は電話で、空から雪が降っているって言うんですよ。そこですぐにバルコニーへ走り出たら、とっても綺麗なシーンが広がってました。」
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米国北部では冬場は12月から2月まで雪景色が続く 写真は首都ワシントンDC郊外のアーリントンの町

5. 'A very happy one in my life'
"I tried to film it with my cell phone camera. This scene has really brought me joy. I called my other friends and the morning turned to be a very happy one in my life."
An Iraqi who works for The Associated Press said he woke his wife and children shortly after 7 a.m. to "have a look at this strange thing." He then called his brother and sister and found them awake, also watching the "cotton-like snow drops covering the trees."

「人生で最良の朝のひとつ」
ハイデールさんの興奮は続く。「私は携帯のカメラでそれをビデオに撮りました。そのシーンは、私にとっては純粋な喜びで、私は他の友達にも知らせるために電話をかけました。今朝は私の人生の中でもとっても幸せなひとときになりました。」
またバグダッドのAP通信に務めるイラク人のひとりは、今朝7時ちょっと過ぎに妻と子供たちと一緒に目を醒ましたが、起きるなり「この不思議なもの」を目にしたと語る。そこで彼は兄弟姉妹に知らせようと電話をかけたところ、彼らもみな起きていて「綿のような雪が木々をおおうように降り積もる」のに目を奪われていたそうである。
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6. Snow fell upon all the living...
For a couple of hours anyway, a city where mortar shells routinely zoom across to the Green Zone became united as one big White Zone. As of late afternoon, there were no reports of violence. The snow showed no favoritism as it fell faintly on neighborhoods Shiite and Sunni alike, and (with apologies to James Joyce) upon all the living and the dead.
バグダッドの上に雪降りつむ...
ともかくそれから1・2時間は、バグダッドの町中みなそんなふうに、生まれて初めての雪景色に見とれていた。その間、米軍本部のあるグリーンゾーンと、その向かい合わせの定期的にロケット弾が飛んでくる区域とは、真っ白なひとつながりの巨大な「ホワイトゾーン」に化したようだった。
バグダッドではその日の午後かなり遅くまで、攻撃の報告は皆無だった。
雪は、シーア派居住区にもスンニ派地区にも、分けへだてなく静かに降り積もった。
そして(ジェームズ・ジョイスには恐縮だが)すべての生者の上にも死者の上にも.....

【米国時間 2008年1月20日 『米流時評』ysbee 訳】
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南北戦争からイラク戦争まで全ての米軍戦死者が眠るワシントンDC アーリントン墓地にも 雪は静かに降りつもる

訳者追記: 最後の1行「Snow fell upon all the living and the dead.」は『ユリシーズ』で著名なアイルランド作家で詩人、ジェームズ・ジョイスの短編『The Dead』の有名な一句である。アメリカの南北戦争の戦死者の写真のキャプションなどによく添えられる。最後のセンテンスは、日本ならさしずめ三好達治の名詩を借りて、こう結ぶところだろう。

    スンニを眠らせ、スン二の屋根に雪降り積む
    シーアを眠らせ、シーアの屋根に雪降り積む   [了]
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by ysbee-2 | 2008-01-20 16:28 | ニュースで一服
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