村上春樹とイスラエル/ガザの壁といのちの卵
||| 「卵と壁」村上春樹とイスラエル |||
例の「イスラエル賞」を受賞した村上春樹氏の話である。そもそもは、パレスチナ関連の記事を連投なさっているピーさんのブログ『P-navi info』で、先月末に彼が文学賞を受賞したことを知り、これは問題になるな、と感じていた。
文学と政治は別物、と割り切って受けるにしろ、イスラエルのガザ侵攻は許せない、と拒絶するにしろ、彼なりの「イスラエル観」を表明せざるをえない結果になるだろうと予測したからである。
この問題で口をつぐむことは、言わば第二次大戦時にヒットラーのドイツ第三帝国によるユダヤ人の虐殺を、事実を知りながら看過したヨーロッパのナチス迎合派と同じ立ち位置になる、と私は解釈しているからだ。戦争のきっかけがどちらにあったか、などというテクニカルな話題で問題の焦点をそらそうとするメディアもある。
イスラエルの冒した大罪の数々は、12月末から一時停戦まで3週間続いた戦闘期間と同時進行で、『米流時評』でも特集を組んでほとんど毎日連載してきたので、詳細を知りたい方にはフィードバックでページ下のリンク集から各エントリーの記事を読んでいただける。
今日お知らせするのは、冒頭の村上春樹のイスラエル賞授賞式におけるスピーチについてである。ブロガー諸兄もそれぞれ一家言あったと見えて、皆さん秀逸なエントリを上げていらした。私自身が書くと、なにぶんガザに関しては怒りや悲しみの感情が先立って、いかんせん浪花節になってしまうので、ほんの一部だが、一読に値するブロガー氏のエントリーを紹介したい。
日本の記事を直接読む機会が少ない私は、当初ニュースサイトのタイトルだけを見て「村上氏受賞」というものだから、なんだ彼でも迎合したか、と失望したのだが、cakeさんのブログで氏が気骨あるスピーチを「敵陣で」披露したことを知り、うれしかった。
文学者だからこその、言葉を武器にした落ち着いた抗議ができたのだろう。
それなりの覚悟もあったろうし……何しろモサドの本陣である。暗殺など朝飯前の土地だ。
長いこと彼の作品のファンではあったが、あらためて、人間として尊敬する。
【米国時間2009年2月16日『米流時評』ysbee】
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FEBRUARY 16, 2009 | 『米 流 時 評』 | 時事評論ブログ雑誌・デイリー版 2009年2月16日号
B E I R Y U | C U R R E N T
エルサレム賞受賞の村上春樹が、イスラエルから世界へ伝えた勇気あるメッセージ
米国時間 2009年2月16日 | By cake / YAN-C / P-navi | 編集『米流時評』ysbee
彼女のエントリでは特に最後のメディアの処理に対する批判が納得いきました。
私もあやうく、村上氏を誤解するところでしたから。
cakeさんのブログ『無題・休題−ハバネロ風味−』2/16号
「村上春樹氏とエルサレム賞」より
イスラエルの文学賞の エルサレム賞の授与式が
15日、エルサレムの国際会議場で行われた。
受賞した作家の村上春樹氏(60)には、ガザ空爆に反対したNPO団体始め、
一般市民からも、この時期にイスラエルへ行く事に反対する意見があがり、
賞を受けるべきではないとメールなども多数送られたと思う。
村上氏は賞を受ける事を決め、
この時期だからこそ、自分の目で確かめる必要もあると、イスラエルに向かった。
イスラエルから、悲惨なガザの状態が見える筈もない。
しかし受賞の演説の時に、表だって彼はガザへの空爆を非難する発言をした。
ガザの人達を卵に喩えて、壁というイスラエルに向かってのコメントは、
非常に重要な物だったと思う。
私も内心 彼の受賞には賛成出来かねるものがあったのだが、
彼の作家としての才能に賞されたものだし、これがイスラエルに行って、
きちんと自分の意見を公に述べる、絶好の機会だったのだろう。
私は素直に拍手を送りたい。
しかし、それを報道する日本のマスコミは一体何なのだ。
一切ガザへの非難のコメントを外して
表彰のみを扱ったマスコミがいた事を、腹立たしく思う。
一般の人には、イスラエルに尻尾を振る日本人にしか見えないだろう。
情報操作とは恐い物だなと思う。
『無題・休題−ハバネロ風味−』2/16号「村上春樹氏とエルサレム賞」より
YAN-Cさんのブログ『RE: SUKI』では、
現地イスラエルでの報道を対訳で載せながら、持論を展開します。
村上氏のスピーチの核心が掴める秀逸なエントリーです。
YAN-Cさんのブログ『RE: SUKI』2/16号
「村上春樹さん イスラエルにて『エルサレム賞』受賞」より
<前略>………小説の中での創作を「嘘」と表現することで、
小説家が多くの方から得る賞賛についてを語りました。
そして、小説家は、小説の中では、嘘を付くものと前提し、
1年の中、嘘に関わらない数日ある日の中の1日が、今日であると伝えています。
冗談ぽい内容ですね。
「今日、私は真実を話します。
私が嘘を付くことにかかわらないことは、1年に数日だけです。
今日は、その中の1日です。」
受賞に際しての、村上さんの考えは、以下のようなものでした。
「私がこの賞を受けることを聞いた時」
「私は、ガザ地区での戦いを理由に、ここに来る事を警告されました。
私は自身で問いただした。『イスラエルを訪れることは、適切なことなのか?
一方の国の支持にならないだろうか?』」
やはり、ガザ地区での出来事と、ご自身の立ち場について、悩まれたようです。
誰もが悩むであろう問題ですが、
小説家は、「見て触れなかった物を信用しない」とし、
今回のイスラエルへの来訪を決めたとのことでした。
「小説家は、見なかった物と触れなかった何物をも、信用することが出来ない。
だから私は、見ることを選びました。
私は、何も言わないことより、ここで話すことを選びました。」
その後の内容は、日本でも報道されていますが、
「卵」を比喩表現として使った、興味深い内容でした。
私の中2脳で訳そうかなと思ったのですが、
日本の報道のほうが早いので、そのまま転載しておきます。
"So here is what I have come to say."
「私が言いたいことは、ここにあります」
「わたしが小説を書くとき 常に心に留めているのは、
高くて固い壁と、それにぶつかって壊れる 卵のことだ。
どちらが正しいか 歴史が決めるにしても、わたしは常に 卵の側に立つ。
壁の側に立つ小説家に 何の価値があるだろうか。」
……<中略>……
「壁はあまりに高く、強大に見えて わたしたちは希望を失いがちだ。
しかし、わたしたち一人一人は、制度にはない、生きた精神を持っている。
制度がわたしたちを利用し、増殖するのを許してはならない。
制度がわたしたちをつくったのでなく、わたしたちが制度をつくったのだ。」
……<中略>……
その様な情勢の中、イスラエル国内での村上さんの発言は、
意味のあるものであったと、個人的には思っています。
何もしない、何も出来ない、ではなく、
実際に動き、言葉を伝えることは、重要です。
全てではなくとも、イスラエルの人に、
村上さんの想いは届いたのではないでしょうか?
小説家の嘘、政治家の嘘、
どこに真実を見出し、何を重視するかは、
人々が努力し探すべき「道」であると伝えているように、私には見えました。
意味のある何かを 世界の人々が共有出来るなら、
「嘘の世界」はなくなるのかもしれません。
『RE: SUKI』2/16号「村上春樹さん イスラエルにてエルサレム賞受賞」より
彼は当初からイスラエルには反対の立場で、村上氏へ受賞を再考するように、各方面へメール送付キャンペーンを展開してきた方です。抜粋したのはその抗議の手紙の一部ですが、他の記事でも日本でのガザ支援の情報が得られます。
ブログ『P-navi info』1/27号
「拝啓 村上春樹さま ――エルサレム賞の受賞について」より
拝啓 村上春樹さま、
この度、村上さんが、イスラエルのエルサレム市が大きく関与している
文学賞「エルサレム賞」を受賞なさるということを聞きました。
しかし、お祝いの言葉を私は言うことができません。
この賞は「社会における個人の自由」を描いた作者に贈られるとありましたが、
村上さんがそれにふさわしくないのではなく、
贈る側が「社会における個人の自由」を口にする資格がありません。
この賞を辞退なさることをお薦めします。 ……<中略>……
しかし、賞を辞退するのも、あなたが共犯者とならないですむひとつの方法です。
それでも、村上さん、あなたが受賞のためにエルサレムに出向くというなら、
受賞式より前に 入植地で虫食いになった東エルサレムを、
人びとを分断し隔離する 巨大な壁を、たくさんの検問所を、
囲い込まれて身動きがとれなくなった西岸の街を
ご自分の目で見ていただきたいと思います。
パレスチナの人びとの声に 耳を傾けてほしいと思います。
イスラエルのおつきの人の目を盗んで、ひとり動きまわるのは
村上さんならやすやすとできそうです。
……<中略>……
あなたの行為が、世界中のあなたの読者を、
そして あなた自身の作品を裏切らないでいてほしいと思うばかりです。
敬具 ビー・カミムーラ(ナブルス通信編集部)……<後略>
ブログ『P-navi info』関連記事リンク
1/27 拝啓 村上春樹さま ――エルサレム賞の受賞について
1/31 [雑記]風邪ひき
2/02 「村上春樹に読者の声を届けるよ!」by. m_debuggerさん
2/12 Open Letter to Haruki Murakami about his Jerusalem Prize
2/12 「拝啓 村上春樹さま」3つの言語への翻訳
2/18 村上春樹エルサレム賞受賞スピーチ (追加あり)
>2/16 「ガザの壁と命の卵」 村上春樹とイスラエル-1
<2/17 「投げつけられた卵」 村上春樹とイスラエル-1
<2/18 「沈黙の壁を越えて」 村上春樹とイスラエル-3
記事リンク http://beiryu2.exblog.jp/9361605
TBリンク http://beiryu2.exblog.jp/tb/9361605
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12/26 ガザ戦争 序章「イスラエルの最終戦争」
12/29(1)「ガザ空爆エスカレート」 凄惨!死者364名 負傷者1400名以上
12/30(2)「ガザの最終戦争宣言」ついに全面戦争へ突入するイスラエル(未掲載)
12/31(3)「ガザ空爆はジェノサイド!」反イスラエル抗議運動世界へ拡大(未掲載)
1/1 『米流時評』年頭のメッセージ「2009年のワルキューレ」ブログの砦の同志たちへ
1/2 (4)中東戦局分析「イスラエルのエンドゲーム」ガザ侵攻の最終目標は中東大戦争?
1/2 (5)中東戦局分析「イスラエルのエンドゲーム」後編(未掲載)
1/3 (6)号外!「ついに地上侵攻開始」イスラエル恐怖のガザ市街戦へ突入!
1/4 (7)緊急レポート・ガザの死闘で長期戦を覚悟するイスラエル
1/5 (8)イスラエルの大罪・ガザジェノサイド【白リン弾使用】
1/6 (9)イスラエルの巨大な棺ガザ
1/7 (10)中東平和への墓標ガザ(未掲載)
1/8 (11)虐殺の砲弾・地上軍のガザ国連学校砲撃で死者40名(未掲載)
1/9 (12)ガザのホロコースト/イスラエル軍の戦争犯罪を赤十字が暴露!
1/10(13)ザイトゥンの虐殺/イスラエルの戦争犯罪目撃者の証言
1/13(14)ガザは大戦末期の日本なのか?イスラエル・タカ派の見る共通性
1/14(15)戦争終結の最終兵器・イスラエル極右タカ派と核使用の危険性
1/19(16)勝者なき闘い・ガザの終りとオバマの始まり
1/27(17)中東とオバマ/カウボーイ外交からピース外交へ
2/09(18)イスラエルとオバマ/タカ派三つ巴のイスラエル総選挙
2/10(19)ネタニヤフとリブニ/イスラエルの2月体制
2/15(20)ハマスとイスラエル/絶望と希望のはざまで・ガザ停戦
2/16(21)村上春樹とイスラエル/ガザの壁といのちの卵
2/17(22)村上春樹とイスラエル-2/投げられた卵
2/18(23)村上春樹とイスラエル-3/沈黙の壁を越えて
2/22(24)パレスチナとユダヤ/永遠に奪われし土地ガザの悲劇
by ysbee-2
| 2009-02-16 12:48
| イスラエル・ガザ戦争