自由への厚い扉/エジプト側のガザ国境再開!
||| ガザ・エジプト間の国境再開 |||
アラブ連盟もガザ入り、イスラエルの戦争犯罪立証のため、現地で調査開始
ガザの国境の壁で対立するユダヤ人とパレスチナ人。ふたつの民族の帰属をめぐって数千年にわたって抗争が繰り返されてきた、聖書の時代からの永劫の戦地。昨年暮れから3週間続いたイスラエルのガザ侵攻は、周辺の中東アラブ世界は元より、和平を願う世界各国の耳目を集めてきた。
特に、常に中東和平を使命のように捉えている英国と米国にとっては、この地域の平定は政権の人気を左右するほどの影響力を持つ。米国では、クリントン国務長官の任命と時を同じくして、国際的紛争解決のベテランで北アイルランド紛争解決の立役者ジョージ・ミッチェルが中東特使に、コソボ紛争解決に貢献したリチャード・ホルブルックがアフガン・パキスタン特使に任命された。【米国時間2009年2月22日『米流時評』ysbee】
このふたつの地域は、イラク戦線とアフガン戦線というブッシュ政権から引き継がざるをえなかった「アメリカのふたつの戦争」の前線である。オバマ政権にとっては、公約通り戦争から平和へと転換していかねばならない、国家の中枢神経と国庫の予算をもっとも消耗させられる「現場」であることは確かだ。
こうした最前線の地域に対して、全神経を集中し現地政権と協力し、和平という最終のゴールまでもっていくためには、諜報と外交と軍事という国家の機能としての3つのパワーをスマートに操る、優れた政治力を発揮しなければならない。
その新しいスマートパワー外交の萌芽が、先週のジョン・ケリー上院議員の中東歴訪に伺えた。ケリーのガザ訪問よりも1週間早く、オバマ政権からは中東へジョージ・ミッチェル特使が派遣され、従来からの親米国家であるヨルダン、エジプト、イスラエル、西岸を歴訪。各国の元首と新しい米国の外交方針に関して、直接会談が行われた。
この際にミッチェル特使はガザを訪れなかったのだが、元来人権擁護の意識の強いリベラル派からオバマ政権に対して「片手落ちである」と批判の声が上がった。しかし、イスラエルと左岸優先の場合に当然予測されたこうした批判の声も、もしかしたら非友好国へ非公式の特使を送るための「世論の裏付け」となる布石として必要という、政治的計算のうちだったのかもしれない。
私の見るところでは、当初からオバマは両者の意見に聴く耳を持つ態勢であったと思う。しかし従来からの友好国家へは、国務省の立場を尊重し省の約定に従って、国務長官もしくは特使に公式訪問させる。国交を持たない国家あるいは政体(イラン、北朝鮮、ガザなど)へは、外交術に長けた議員を私的な立場で赴かせ、当地の代表と直接的な会話を持つ......という徹底した現場主義、実績主義のメソッドを展開している。
オバマは、こういうブッシュ政権時からは考えられない多面的なアプローチで、思い切った友好外交の道を拓こうと踏み出したように見える。今回のケリーのガザ訪問を検討しても明らかなように、オバマは外交の世界でも、実に驚くほどのプラグマチストであることがわかる。その成果は、次号の「9億ドルの同情/米国のガザ復興援助金」で詳説する予定である。
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FEBRUARY 22, 2009 | 『米 流 時 評』 | 時事評論ブログ雑誌・デイリー版 2009年2月22日号
Associated Press | B R E A K I N G
ガザのラファ国境2か月ぶりで再開! アラブ連盟も戦争犯罪調査でガザ入り
米国時間 2009年2月22日午後6時44分 | AP 通信・ガザシティ現地速報 | 訳『米流時評』ysbee
The opening allows students, patients and others with visas to leave Gaza
FEBRUARY 22, 2009 | Associated Press — BREAKING | Translation by ysbee
GAZA CITY, Gaza Strip — Hundreds of travelers left blockaded Gaza for Egypt on Sunday, in one of the sporadic openings that enable students, patients and others with Egyptian visas to cross the border. About 1,000 university students and holders of foreign residency permits were eligible to cross, and by mid-afternoon Sunday, about 600 people had made the trip, border officials said.
初日にビザ所有者1千名以上が通過
ガザ地区・ガザシティ発 |22日日曜、長い間封鎖されていたガザ地区から、千人を越えるパレスチナ人がエジプトへと旅立った。今回のガザとエジプトをつなぐラファ国境関門の再開は、これまでにも繰り返されてきた瞬発的な国境オープンの例にもれず一時的な措置だが、大学生やエジプトの病院の患者にとっては、国境を越えて目的の果たせる待望の朗報となった。
エジプトの大学に所属するパレスチナ人学生やエジプトの永住権を持ったガザ市民1千名以上が、国境管理事務所でビザ確認の手続きを終えた後で、越境を許可された。係員の談話では、日曜午後半ばまでにすでに600名がエジプトへ入国したと報告している。
2. Arab League delegation arrived in Gaza
Also on Sunday, Arab League delegation arrived in Gaza, and the representatives of Gaza's ruling Hamas movement welcomed the delegation at the Rafah border crossing. Their visit is aiming to document alleged Israeli war crimes committed during its three-week offensive in the territory last month. The delegation of international legal and forensic experts will present its findings to the Arab League's chief, Amr Moussa.
アラブ諸国連盟の調査団ガザ入り
国境が開通した22日日曜には、アラブ連盟の視察団がようやくガザ入りを果たした。ガザを運営する政体であるハマスは、視察団一行の到着を諸手を上げて歓迎した。
彼らの視察の目的は、12月末から1月後半まで3週間にわたってイスラエル軍によって強行されたガザ侵攻の期間中、イスラエルの軍隊が犯した戦争犯罪の疑惑に関して、現地で実地調査し記録を取るためである。国際法および犯罪科学捜査の国際的エキスパートによって編成されたこの視察団は、調査資料を編成しまとめたあとで、アラブ連盟のアムル・ムーサ議長へ提出する予定である。
3. Investigation on alleged Israeli war crimes
Then Arab League with its 22 member states could try to pursue war crime charges in some nations that allow such lawsuits. Critics accuse Israel of using disproportionate force, and failing to protect civilians during its offensive, which was meant to halt years of Gaza militant rocket fire toward southern Israel.
イスラエルの戦争犯罪捜査展開
アラブ連盟に加盟する22の中東諸国は、使節調査団から報告書が提出されたあとで、戦争犯罪の成立する国家(ジュネーブのスイスやハーグ国際裁判所のあるオランダなど)の法的機関へ、「戦争犯罪」の被告としてイスラエルを起訴処分にする予定である。
イスラエル側の言い分としては、ガザ侵攻は数年にわたってハマスがイスラエル南部へロケット砲攻撃を繰り返した報復措置としての軍事行動であると弁明している。しかし今回のガザ侵攻で行なわれた軍事作戦の実態を、国際問題の専門家や軍事評論家は「イスラエル全軍による比較にならない軍事力による過剰攻撃」が行なわれ、侵攻作戦中「一般市民の保護を怠った」(実際には一般市民を無差別に殺戮した)と厳しく非難している。
4. Discovered bodies from the tunnels
Also Sunday, the bodies of four people were found in a smuggling tunnel under the Gaza-Egypt border, a day after another body was discovered in the area. Medics said all five suffocated. The 20-month closure of Gaza by Israel and Egypt has boosted smuggling of arms and consumer goods through hundreds of border tunnels.
トンネル内で窒息死した遺体4体を発見
一方同じ22日日曜、ガザ・エジプト国境の地下を走る物資密輸のトンネルから、4体の遺体が発見された。その前日に同じ地区で一体の死体が見つかった直後のことである。検死した医師の報告では、これら5名の犠牲者全員の死因は窒息死だったと言う。
1昨年夏にイスラエルとエジプトによって強行された国境閉鎖によって、これまで20か月の長きにわたって、ガザ地区は完全に封鎖状態となった。その結果 (ガザには他に物資補給のルートがないため)、武器や生活必需品などのあらゆる物資が、ガザ地区の国境線の地下に掘られた数百というトンネルを経由して、密輸入されていた。
5. Border reopening, the key for the truce
Israel destroyed dozens of tunnels during its three-week offensive against Gaza's Hamas rulers last month, but smuggling continues. The fate of Gaza's borders is key in two sets of Egyptian-brokered talks — on a truce deal between Israel and Hamas, and on a power-sharing agreement between Hamas and its rivals from President Mahmoud Abbas' Fatah movement. Hamas ousted Abbas' forces in a violent takeover of Gaza in June 2007.
和平交渉展開の鍵となる国境再開
ガザの制圧者ハマス掃討という大義名文で、昨年12月26日から3週間続けられたイスラエル軍によるガザ侵攻作戦。この戦闘期間中に、イスラエル側はガザ地区内の数十カ所のトンネルを爆撃して破壊したものの、密輸は相も変わらず続けられていた。
このガザ国境線の趨勢は、現在エジプトが仲介役となって進めているイスラエルとガザのハマスとの和平協定をゴールとする和解の話し合いにとって、成否の鍵を握る重要な案件である。また、左岸地区のアッバース大統領の率いるファタハ勢力と、ガザ地区をとりしきるハマス勢力との間で、パレスチナ代表としての覇権を統合するのか分立させたままか、という国家成立の可否を賭けた問題を解決するための前提条件でもある。
6. Power-sharing talks to begin Wednesday
Power-sharing talks between Hamas and Fatah are to begin Wednesday in Cairo, said Azzam al-Ahmed, a Fatah official in the West Bank. Hamas officials reiterated Sunday that Fatah must first release hundreds of Hamas prisoners, but it's not clear if Hamas would walk away from the talks if its demands were not met. Efforts to form a unity government have failed in the past.
カイロでハマス・ファタハのパレスチナ2者会談
ハマスは2007年の6月にガザを武力制圧して、政敵だったアッバースのファタハ勢力(Fatah=ファター/ファタ)を左岸へ追放した。パレスチナの代表権をめぐって、宿敵同士であるハマスとファタハの間で行なわれる直接会談は、25日水曜にカイロで開催されると、左岸のファタハ高官であるアッザム・アルアハメド氏から発表された。
この件に関して、ハマス側高官は日曜「ファタハがまず先に、左岸の捕虜になっている数百人のハマス兵士を解放するべきだ」というハマス側の要求を強調した。しかしながら、万一この要求をファタハが受け入れなかった場合には、ハマスが会談の場を蹴るかどうかはさだかでない。
7. Strong motives for unity deal
Efforts to form a unity government have failed in the past. However, after Israel's Gaza offensive, both sides have stronger motives to try to make it work. Hamas needs a unity deal to end the blockade of Gaza and be considered a partner by the international community in rebuilding the territory.
パレスチナ統一国家への悲願
パレスチナの統一政府創設への努力は過去にも何度か試みられたが、そのたびに失敗に終わっていた。しかしながらイスラエルのガザ侵攻が終わった現段階においては、ガザのハマス、左岸のファタハの双方とも、なんとかして統一政府を成立させたいという動機が強まってきている。
ハマス側としては統一協定が結ばれれば、ガザの封鎖が解除になり、すでに国連からは国家承認されている左岸政府に統合協力するパートナーとして、国際社会からも承認を受けて地域再建が進められる、という希望がある。
8. Abbas needs support from Hamas
Abbas, meanwhile, has overstayed his term as president and needs a partnership with Hamas to shore up his dwindling political legitimacy. Abbas was elected to a four-year term which expired in January 2009, and pollsters say most Palestinians don't accept his claim that he could extend by a year.
政権継続にはハマスの協力が要るアッバース
一方、左岸ファタハ政権の代表アッバース大統領は、すでに任期の期限を越えて大統領職に留任していた。また今回のイスラエルのガザ侵攻で、左岸パレスチナ人の支持をますます失ったために、任期延長の合法性を疑問視されている難局から自らを脱出させる手段として、ハマスにパレスチナ政府のパートナーシップを与えて、地位存続を図る必要がある。
実際問題として、アッバースは今年1月に4年の任期を終了した。さらには、左岸地区で行なわれた世論調査の結果では、彼の任期をもう1年延長するというアッバース提案を、左岸のパレスチナ人のほとんどは承認しないという結果が出ている。
9. International conference in Egypt on March 2
International donor countries are meeting in Egypt on March 2 for a pledging conference, to raise money for Gaza's reconstruction. Hamas will remain sidelined, including in reconstruction efforts, unless it moderates and allows Abbas a foothold in Gaza.
3月初めにエジプトで再建協力国会議
きたる3月2日には、国連のUNRWAや国際赤十字など国際社会の人道救援基金団体が主催して、「ガザ再建」への寄金を募る大会をエジプトで開く予定である。ガザの復興に関しては、ハマスとの和解が整いアッバースのガザ帰還を足場を築かない限り、ハマスは再建計画を含めたガザ復興において、脇役へ回らざるを得ないだろう。
10. Elderly man bit by dog in West Bank raid
In other developments Sunday, the Israeli military confirmed that an army dog bit an elderly Palestinian, Salem Bani Odeh, 99, during the pre-dawn raid Friday in the West Bank village of Tamoun. He was in his bed when he was bitten repeatedly. He remained hospitalized Sunday with a gash in his left ear. Israeli troops regularly use dogs to detect explosives and search for militants.
西岸の老人を軍用犬に咬ませたイスラエル軍
22日日曜までのガザ地区の現況報告の中に、イスラエル軍が認めた軍用犬による傷害事件がある。この事件は、20日金曜明け方に西岸のタムーン村で起きたもので、村の老人サレム・バニ・オデさん(99才)が、イスラエル軍の掃討作戦部隊の奇襲に遭った災難である。
夜明け前ベッドでまだ就寝中だったところを、イスラエル陸軍が連れてきた軍用犬が襲い、オデさんは繰り返し咬まれた結果、左耳を咬みちぎられた。日曜の段階でも、オデさんはまだ治療入院中である。ちなみにイスラエルの軍隊は、爆発物の発見やイスラム兵士の捜索発見の目的で、通常作戦中でも軍用犬を引き連れている。 <了>
【 米国時間 2009年2月22日 『米流時評』ysbee訳 】
>2/15 「絶望と希望のはざまで・ガザ停戦」 ハマスとイスラエル
>2/19 「ジョン・ケリーのガザ巡礼」 リベラルとパレスチナ
>2/21 「鼎頭の鷹の旗の元に/イスラエル組閣難航」 カディマとリクード党
>2/22 「自由への厚い扉/エジプト側の国境再開!」 エジプトとガザ
<2/23 「9億ドルの同情/米国のガザ復興援助」 パレスチナとオバマ
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12/26 ガザ戦争 序章「イスラエルの最終戦争」
12/29(1)「ガザ空爆エスカレート」 凄惨!死者364名 負傷者1400名以上
12/30(2)「ガザの最終戦争宣言」ついに全面戦争へ突入するイスラエル(未掲載)
12/31(3)「ガザ空爆はジェノサイド!」反イスラエル抗議運動世界へ拡大(未掲載)
1/1 『米流時評』年頭のメッセージ「2009年のワルキューレ」ブログの砦の同志たちへ
1/2 (4)中東戦局分析「イスラエルのエンドゲーム」ガザ侵攻の最終目標は中東大戦争?
1/2 (5)中東戦局分析「イスラエルのエンドゲーム」後編(未掲載)
1/3 (6)号外!「ついに地上侵攻開始」イスラエル恐怖のガザ市街戦へ突入!
1/4 (7)緊急レポート・ガザの死闘で長期戦を覚悟するイスラエル
1/5 (8)イスラエルの大罪・ガザジェノサイド【白リン弾使用】
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1/7 (10)中東平和への墓標ガザ(未掲載)
1/8 (11)虐殺の砲弾・地上軍のガザ国連学校砲撃で死者40名(未掲載)
1/9 (12)ガザのホロコースト/イスラエル軍の戦争犯罪を赤十字が暴露!
1/10(13)ザイトゥンの虐殺/イスラエルの戦争犯罪目撃者の証言
1/13(14)ガザは大戦末期の日本なのか?イスラエル・タカ派の見る共通性
1/14(15)戦争終結の最終兵器・イスラエル極右タカ派と核使用の危険性
1/19(16)勝者なき闘い・ガザの終りとオバマの始まり
1/27(17)中東とオバマ/カウボーイ外交からピース外交へ
2/09(18)イスラエルとオバマ/タカ派三つ巴のイスラエル総選挙
2/10(19)ネタニヤフとリブニ/イスラエルの2月体制
2/15(20)ハマスとイスラエル/絶望と希望のはざまで・ガザ停戦
2/16(21)村上春樹とイスラエル-1/ガザの壁と命の卵
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2/19(24)ジョン・ケリーのガザ巡礼/リベラルとパレスチナ
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2/22(27)9億ドルの同情・米国のガザ復興援助/パレスチナとオバマ
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by ysbee-2
| 2009-02-22 20:18
| イスラエル・ガザ戦争