さらば中世!タリバン恐怖政治の終焉
||| さらば中世!タリバン恐怖政治の終焉 |||
密告・暗殺・公開斬首刑……殺戮の恐怖政治から脱出する百万のスワット谷住民
日本は、昨夜の小沢民主党代表の辞任宣言で、
みなさん一斉にこの話題をとりあげてらっしゃいますね。
次期総選挙の勝敗の鍵を握る当事者の辞任ですから、無理もない。
私はすでに米国永住の身柄なので、一片の意見も寄せる権限はありません。
なので、あくまで私感にすぎませんが、外野席で見る限りでは
「なんとタイミングの悪い……」という実感は拭えません。
辞めるなら辞めるで、政治資金問題のピーク時であれば、
いさぎよいとも思えたのかも知れませんが
すったもんだの挙げ句、このまま連投していくかに見えた直後の辞意。
やはり間が悪い。
決断力のブレというか、歯切れの悪さだけが残る……
結果の出ていない事態を予測する「ちから」が
指導者としての洞察力であり、
あえて一歩先の課題に決断を下す「しごと」が
政治家としての判断力であるはず。
このタイムラグは、政党の党首としては致命傷に近い。
あくまで、政治家に求められる資質としての一般論ですが。
まあ外野には発言権はないので、みなさんのエントリで勉強させていただきます。
さて本日も、風雲急を告げるパキスタンのスワット谷で展開する
政府軍のタリバン掃討作戦と、その結果派生した100万人の国内難民
IDP (Internally Displaced Persons) の問題についてのエントリ。
今回から3編にわたって紹介するのは、
ワシントンポストの才媛、パメラ・コンステーブル記者の
タリバン掃討戦線における、スワット谷侵攻作戦の現地レポートです。
彼女は01年のアフガン侵攻以来、アフガニスタンとパキスタンにおける
テロ戦争の実相と、アルカイダ・タリバンと地元住民の相克について
現地記者ならではのきめ細かい深奥の情報を伝えてくれる貴重な存在。
今回の記事も、これまでの複雑な経緯をきわめてわかりやすく「まとめ」てあり
クロニクルのように「おさらい」できる時評なので、あえて取り上げました。
この中では、通常のニュースでは語られない
日本人には不可解な、イスラム教の一般的教義解釈と
狂信的なタリバンの解釈との違いを、明確に指摘。
蛮族の覇権の謀略と、普遍的な宗教倫理との
「永訣の論理」を浮き彫りにしてくれます。
なぜパキスタン政府が、一地方にせよタリバンに統治をまかせたのか?
などという基本的な疑問にも、きちんとした解説があり
一筋縄ではいかないパキスタンの国情の概略を掴む上でも
参考にしていただければと思い、翻訳する次第です。
【米国時間2009年5月9日『米流時評』ysbee】
『米流時評』緊急特集 パキスタン最前線レポート
〜「スワット谷 百万人のエクソダス」〜
第1章 百万人の難民エクソダス パキスタン最前線レポート /AP通信パキスタン支局
第2章 スワット谷のエクソダス タリバニスタン民族大移動 /AP通信パキスタン支局
第3章 さらば中世! タリバン恐怖政治の終焉 /ワシントンポスト・パキスタン支局
第4章 21世紀狂気の蛮族 タリバン最期の日々 /ワシントンポスト・パキスタン支局
第5章 テロ戦争終章へ アフパキ前線のエンドゲーム /ワシントンポスト・パキスタン支局
W A S H I G T O N P O S T | B R E A K I N G
イスラム原理主義で中世の暗黒を再現した、タリバニゼーション統治の終焉
米国時間 2009年5月9日 | ワシントンポスト・パキスタン支局発 | 訳『米流時評』ysbee
Swat Valley Chronicle-1: Taliban Justice
Taliban-style justice stirs growing anger within the Swat Valley residents
MAY 9, 2009 | By Pamela Constable — WASHINGTON POST | Translation by ysbee
1. Ruling by fear in Swat Valley
ISLAMABAD, Pakistan — When black-turbaned Taliban fighters demanded in January that Islamic sharia law be imposed in Pakistan's Swat Valley, few alarm bells went off in this Muslim nation of about 170 million.
スワット谷、タリバンの暗黒統治
パキスタン・イスラマバード発 |今年の1月、黒いターバンが特徴のタリバン軍団が、パキスタン北西部のスワット谷にイスラム教法典のシャリア法を施行した時には、この1億7千万人の人口がひしめくイスラム国家パキスタンで、警世の声を上げる者はほとんどいなかった。
2. Taliban's swift justice of Sharia Law
Sharia, after all, is the legal framework that guides the lives of all Muslims. Officials said people in Swat were fed up with the slow and corrupt state courts, scholars said the sharia system would bring swift justice, and commentators said critics in the West had no right to interfere.
タリバン勢力下のシャリア法適用
「シャリア法/Sharia Law」というのは、とどのつまりムスリム、つまりイスラム教徒すべてが生活の規範とする、法的枠付けである。
この地区へシャリア法が導入された経緯(いきさつ)は、地元の役人たちが一概に言っている説を借りれば「スワット地方の住民は、腐敗した中央政府による司法体制の進行が、あまりにも遅々として進まないのに業を煮やしたからだ」と言う。
また法学者たちも、シャリア法の裁判制度では判決が直ちに行なわれる司法体制を支持し、政治評論家たちは導入当時、口々に「西欧諸国が口をはさむ権利はない」と国際的な批判を拒絶した。
3. Fear and threat of Talibanization
Today, with hundreds of thousands of people fleeing Swat and Pakistani troops launching an offensive to drive out the Taliban forces, the pendulum of public opinion has swung dramatically. The threat of "Talibanization" is being denounced in Parliament and on opinion pages, and the original defenders of an agreement that authorized sharia in Swat are in sheepish retreat.
「タリバニゼーション」恐怖政治の終焉
しかし今日では、数十万人の住民がスワットの谷間から逃げ出し、パキスタン政府軍はタリバン勢力をこの土地から追い出すための攻撃作戦を開始した。この急転直下の事変の陰には、一般大衆の意見が劇的なほど急旋回したという背景がある。
ほんのここ数ヶ月で「タリバニゼーション」の脅威は、新聞の社説欄や国会でも大々的に取り上げられ、スワット地方でのシャリア法施行を承認する議案の提案者たちは、現在のような危機を招いた手前、羊のように寡黙になり議論の場から身を引いてしまった。
4. 'Victims of ignorant cavemen'
The refugees are the "victims of ignorant cavemen masquerading as fighters of Islam," columnist Shafqat Mahmood charged in the News International newspaper Friday. He said that the "barbarian horde" that invaded Swat never intended to implement a sharia-based judicial system and that they just used it as cover. "This is a fight for power, not Islam," he wrote.
「無知な野蛮人の犠牲者」
「スワット谷からの難民は、イスラム戦士の仮面をかぶった無知な野蛮人の犠牲者だ。」
パキスタンの代表的コラムニスト、シャフカット・マフムード氏は、パキスタンの大手新聞『ニュース・インターナショナル』金曜付けの紙上で、こう論評した。
「スワット地方を侵略した『蛮族/barbarian horde』がシャリア法を基盤とする司法体制の確立を目指したというのは、彼らの本心を隠すための言い訳にすぎない。彼らの本来の目的は、実はこの地方の『覇権』であって、イスラム教徒のために闘っていると言うのは、体のいい口実の隠れみのにすぎない。」
5. Distinction between the Taliban and Islam
Such widely expressed views make a clear and careful distinction between the Taliban version of Islam — often described as narrow-minded, intolerant and punitive — and what might be called the mainstream Pakistani version of Islam, which is generally described as moderate and flexible.
タリバンとイスラムとの「永訣の論理」
タリバンを糾弾するこのような意見が広汎な国民に読まれ、パキスタン社会に新たにもたらされた啓蒙……しばしば「狭量・厳格・狂信的」と表現されるタリバン流のイスラム教の解釈と、一般的には「温和・柔軟」と形容される、パキスタン人の主流とも呼べるイスラム教の解釈との間に、こうした反タリバニズムの言論は、微妙ではあるが明確な「永訣の論理」をもたらした。
6. Two complementary aspects of Islamism
Pakistan is a vast country with many sects and varieties of Islam, but experts here said most Pakistani Muslims agree that their religion has two complementary aspects. One is a set of unchangeable principles that guide their behavior, values, faith and relationships.
イスラム主義の思想と実践
そもそもパキスタンは、イスラム教に関しては数限りない宗派・門派が、1億7千万人の国民の間に併存する広大な国である。しかしイスラム研究の専門家の間では「パキスタンのイスラム教徒の間には、大別して2つの潮流がある」というのが通説である。
そのひとつは、パキスタン人の行動様式・価値観・信仰心・人間関係のガイダンスとなる、一連の「不変の綱領」とも呼べる精神的規範である。
7. 'Our identity and system of life'
The other is a practical application of these principles, may adapt and evolve according to changing times and conditions, including war, weather, technology and taste. "Islam is our identity and our system of life, but variety and choice are part of it," said Khurshid Ahmad, an Islamic scholar and national legislator.
「イスラム教は人生のすべて」
もうひとつの法則は、こうした精神的指導要綱を実践に移す際の方法論で、時代や社会環境の変化にしたがって柔軟に適応し進化する「実践原理」である。この場合の社会条件としては、戦争・気候変化・技術革新・世論の風潮、などが挙げられる。
「イスラム教は、われわれの存在意義であり生き方の基盤であるが、柔軟な変化対応と選択の余地もその一環として存在する」こう主張するのは、イスラム教研究の学者で国会議員でもあるクルシド・アハマド氏である。
8. 'Taliban destroyed their own case'
"People should dress modestly, but women don't have to cover their faces and men don't have to grow long beards," Ahmad said. "The Koran is very clear that there should be no coercion in religion. You cannot cram it down people's throats. This is where the Taliban destroyed their own case."
「極端な解釈で自滅したタリバン」
「イスラム教徒ならば、装いは品をわきまえて慎ましくありたいものですが、だからといって女性が顔をバーカで隠したり、男性が長いあごひげを伸ばしたりしなければならないという鉄則はありません。コーランの教えでは『宗教には一切の強制はない』という一点で、きわめて明快です。」
「信仰というものは、人々の口をこじあけて無理矢理飲み下させるようなことはできません。この『狭義な信仰実践の強制』という点が、タリバンが墓穴を掘った由縁です。」
議員でイスラム教義の学者であるアハマド氏は、タリバンの自滅の論理をこう解説した。
9. Result of corruption of justice
Yet the demand for sharia courts in Swat was not just a Taliban fiction. It was the result of deep public dissatisfaction with a secular state court system criticized across the country as slow and corrupt, with cases dragging on for decades and influential people often able to buy off police and win cases over their poor adversaries. Islamic courts are generally smaller, faster and cheaper.
腐敗した司法制度への不満
しかしながら、スワット地方の地元住民がシャリア法による裁判実施を希望したのは、タリバンの覇権の攻略に従ったからだけではない。それは、中央政府と地方行政の腐敗の構造を指摘する批判と、遅々とした司法体制に対する積年の憤懣が、パキスタン全土の一般大衆の間で堆積してきた結果にほかならない。
10. Why Sharia Law was applied?
With a secular state court system they criticized across the country as slow and corrupt, since the cases dragging on for decades and influential people often able to buy off police and win cases over their poor adversaries. Meanwhile, Islamic courts are generally smaller, faster and cheaper.
スワット地方でのシャリア法の導入
特に地方の有力者が犯罪行為を犯した場合でも、彼らは警察や裁判官を買収して無罪放免になり、貧窮層は弁護士を雇えないために有罪になる、というケースが多々積み重なってきた事実に民衆がうんざりした結果、シャリア法の導入に走ったと解釈されている。対照的にイスラム教典で裁く法廷は「州の法廷よりも小規模で、迅速に判決が下るので安上がり」という長所が、貧しい一般的な層の支持を集めたのだった。
11. Parallel jury systems in Pakistan
Under Pakistan's constitution, both types of courts function, but sharia courts have limited jurisdiction over certain crimes such as extramarital sex and murder.
パキスタンの二律背反の司法制度
現行のパキスタン憲法の元では、中央政府の法廷もシャリア法の法廷も、共に裁判所としての実効機能が認められているため、ふたつの異なるタイプの司法制度が併存する結果を招いてしまった。
しかしながらシャリア法の裁判では、特に不義密通や殺人などに対して「犯罪」が成立しても、判決の実行に対してはある程度の限定条件が課せられている。
(注:目には目をという厳しい刑罰法を実施するサウジアラビアやイランなどとの相違点)
12. Taliban's absolute powers in Swat
Sharia court judges have legal as well as religious training, and their verdicts can be appealed to state superior courts; nowhere do they have the kind of absolute powers the Taliban sought in Swat.
スワット谷の独裁勢力となったタリバン
シャリア法実施の法廷裁判官の場合、イスラム教僧侶の修得課程と同様に、イスラム法の履修課程をクリアした者に裁判官としての法的権限が与えられる。かくして彼らの下した判決は、パキスタン中央政府の最高裁判所への上告と同等の権限を有する。
しかしながら、スワット地方でタリバンが覇権を果たしたようなたぐいの「絶対権力の執行」は、パキスタンのよその地方では前代未聞の事態だったのも事実である。 >次号へ続く
【 米国時間 2009年5月9日 『米流時評』ysbee訳 】
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by ysbee-2
| 2009-05-09 16:30
| タリバニスタン最前線